感情と、自らのゲームをコントロールするタイガー・ウッズ
2000年 全米オープン
期間:06/15〜06/18 場所:ペブルビーチGL(米国カリフォルニア州)
タイガー、隔絶の12アンダー完全V メジャー3勝、次は全英オープンしかない
「タイガー・ウッズの全米オープン」が終わった。恒例、戦闘色の赤をまとったタイガーの勝利はスタート前から既定の事実のようなものだったが、それにしても12アンダー。2位にオープンレコードの15ストローク差を付ける圧倒的なVだった。最後の短いパーパットを決めた瞬間、ウッズはニッコリ笑って、軽く右手を振り上げた。決して激しく突き上げる感情の発露ではなく、3度目のメジャー獲得を自分自身に納得させるためだけのような、そんな突き抜けた明るい笑顔だった。
完璧なゴルフだった。「優勝スコアはイーブンパー付近」というUSGAのセッティングを完全に笑い物にするようなゴルフだった。ペビルビーチとは思えないような晴天無風の異変日とはいえ、全米オープンの最終日をノーボギーで走り抜けた。アウトはひたすらスコアカード通りのプレーに耐え、10番、12番、13番、そして14番とバーディ。15番では初めてミスらしいミスショットをして珍しく怒りの表情をあらわにしたが、しかし結果はバーディ逃しのパー。16番もまた右の浅いラフに入れ、グリーンオーバー。ふつうの選手のふつうのプレーなら立派にダブルボギーのパターンだったが、しかし難なく寄せてこれもパーセーブ。17番も同様。難しいバンカーからきれいに寄せてのパー。
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10打の貯金を持ってスタートした男が、更にダメ押しの67でプレーする。この男と戦おうという気など起きるわけがない。エルスもヒメネスも、タイガーを追うどころか2位争い、あるいはタイガーに記録を作らせないためだけのゴルフをするしかなかった。プロとしてこんなに辛いラウンドはない。タイガー以外の62人が、それぞれなりに不本意なゴルフを戦う最終日だった。
あのニクラスの全盛時でも、これほど隔絶した印象を与えることはなかったような気がする。ニクラスは「並の超人」「理解できる範囲のスーパースター」だった。飛距離もパッティングも、研ぎ澄まされたコンセントレーションも、並のプロとはまったく違ってはいた。しかし、彼はまだ人間だった。
もちろんウッズも失敗をする。感情をあらわしもする。微笑むときは可愛い少年の幼さも見せる。しかし何故か「彼は別格。ふつうのプロではない」と切り捨てたい気持ちに襲われることがある。レベルがあまりにも違いすぎるためだろうか。弱みを見せることがあまりにも稀だからだろうか。24歳の顔をかぶった40歳の心とレスラーの肉体をもったプレーヤー。
勝手な言い分だが、セントアンドリュースの全英オープンでは苦しむタイガーを見たい。苦しみ、悶え、そして4つ目のメジャーを制してグランドスラマーとなるタイガーを祝福したい。15ストローク差などどいうエキジビションのようなワンサイドゲームは、ファンにとっても決して心から楽しめるものではないのだから。
それにしても、それにしても強い。