失格の畑岡奈紗が意見書 球探し “3分ルール”の明確化を
畑岡奈紗の悲劇はどうにも理不尽/小林至博士のゴルフ余聞
畑岡奈紗が気の毒だ。6月のLPGAツアー「ショップライトLPGAクラシック」の初日のプレーで、茂みに入ったボールを探す時間が規定の3分間を超えたとテレビ局のリポーターからツアー側に指摘があり、最終的に失格となった。失格後に自身のSNSに投稿した意見書で指摘した3つの視点-「ルールの曖昧さ」「違反の指摘と処分のタイミング」「映像による検証」はまさに的を射ており、LPGAツアープロからも畑岡を擁護する声が相次いだ。
畑岡は1週空けて挑んだ「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」で、メジャー大会では14試合ぶりとなる予選落ち。「パリ五輪」出場の夢もついえた。失格騒動の影響があったかどうかは分からないが、同情を禁じ得ない。
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ゴルフは、“審判は自分”という独自の特徴を持つスポーツである。最も有名な事例は、1925年「全米オープン」でのボービー・ジョーンズの自己申告だ。深いラフで「アドレスの際、ボールが動いた」と同伴競技者のウォルター・へーゲンに申告し、自らに1罰打を科した。
この一打で首位に並ばれ、プレーオフで敗れたが、称賛するメディアに対し、ジョーンズは「銀行で金を盗まなかったのを褒められるようなものだ。ゴルファーとして当然の行為である」と応じた。この高潔な自己申告の精神がゴルフの神髄とされてきた。
しかし、近年のプロツアーでは、審判は自分、自己申告に拠るというゴルフ精神が体現されていない事例がしばしば起きている。競技者自身や同伴競技者、さらには大きな大会では1組に1人帯同している競技委員でもない、第三者の指摘によって罰打や失格に至る例が多発しているのだ。
LPGAツアーで、映像による検証として有名なのが、今季限りでの引退を表明したレキシー・トンプソンの悲劇である。2017年のメジャー「ANAインスピレーション」(現「シェブロン選手権」)で、首位を走っていた最終日のラウンド中に競技委員から4罰打を通告された。
前日の第3ラウンド後、視聴者から17番グリーンでマークした場所と異なるところからプレーを再開したとの通報があり、競技委員が映像を確認。ツアー側が4罰打を科すことを決定した。
タイガー・ウッズをはじめ多くの選手から、このLPGAの裁定に対して非難の声が上がった。ウッズいわく「家でテレビ観戦している人は競技委員ではない」。付記すると、YouTubeなどで映像が残っているが、誤所からのパットであると判断するには精緻なズームインが必要で、アナログ映像であればおそらく判定不能だったかもしれない。デジタル時代、恐るべしである。そのウッズも2013年の「マスターズ」で、ドロップ場所の違反をテレビ視聴者から指摘され、スコア提出後に2罰打を科された。
自己申告を競技精神としながら、同伴者への確認(アテスト)も済ませた後に、第三者の指摘で罰則を科すことや、中継画面でルール違反が発覚するのが上位選手か人気選手であることは、どうにも理不尽な気がする。しかし、十分な対応策が取られないまま、今回の畑岡の悲劇が起きた。畑岡の「今回のようなケースが他の選手に起きてほしくない」との声明も、残念ながら届かないだろう。(小林至・桜美林大学教授)
- 小林至(こばやし・いたる)
- 1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。