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LIVの“札束攻勢” 米大学ゴルフのスター流出も/小林至博士のゴルフ余聞
昨年6月に誕生したサウジアラビア資本の高額賞金ツアーLIVゴルフが、プロゴルフ産業に世界規模で大きな影響を与えていることは、様々な媒体で報じられている。本稿でも複数回、解説を試みてきた。
サム・バーンズの優勝で幕を閉じた世界選手権シリーズ「WGCデルテクノロジーズ・マッチプレー」も影響を受けたひとつで、賞金総額は前年の16億円(1ドル=135円換算、以下同)から27億円と大幅増となった。PGAツアーのジェイ・モナハン・コミッショナーは記者会見で「それでも、札束合戦ではかなわない」とぼやいていたが、それほど、サウジのオイルマネーはすごい。
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先日、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが2022年決算を発表し、売り上げが75兆円、純利益が22兆円で、ともに過去最高額だった。文字通り、おカネが湧いて出てくるサウジアラビアが自由に投資できる資金は84兆円だという。先頃、自動車レースのF1を丸ごと2.7兆円で買収するオファーを出したことが報じられていた。
こんな“モンスター”に札束だけで勝負するのは、モナハンさんの言う通り、無理だ。むろん、歴史と伝統に裏打ちされたPGAツアーのステータスは、そうそう揺らぐものではないが、LIVゴルフと全面戦争を続ける限り、最大の資産であるスター選手が引き抜かれていくことは覚悟する必要があるだろう。
こうした状況下、PGAツアーはおカネをかけることなくできる対抗策として、若手の囲い込み策を強化することにした。PGAツアー・ユニバーシティの拡充である。PGAツアー・ユニバーシティとは、アメリカの大学ゴルフのランキング上位選手に、下部ツアーなどのシード権を与えるという制度で、2020年に発足した。
具体的には、NCAA(全米大学体育協会)所属の大学で4年間プレーした選手を対象に、ランク上位5人に米下部ツアーのコーンフェリーツアーの出場権、6位から15位までにPGAツアーカナダ、PGAツアーラテンアメリカ、PGAツアーチャイナの出場権を付与するという制度だった。それが今年から、対象を3年生に引き下げ、さらに1位の選手には、PGAツアーのシード権を付与することにした。
昨年9月、LIVゴルフはアリゾナ州立大ゴルフ部のスター選手、デビッド・プーチと契約金5億4000万円で所属契約を結んだ。スペイン出身のプーチは当時、PGAツアー・ユニバーシティのランク9位だったが、まだ3年生でプロ転向してもシード権を得られるツアーはなかった。
大学ゴルフにも影響を及ぼすに至ったLIVが投じた波紋、次はどのようなカタチで表出するか、今後も注目していきたい。(小林至・桜美林大学教授)
- 小林至(こばやし・いたる)
- 1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。