不安の開幕戦に名参謀 女王・鈴木愛は清水キャディとタッグ
プロキャディが帯同したら、あなたのゴルフはどう変わるのか?
2020/10/28 18:05
キャディ歴代最多となる通算38勝の清水重憲さんと、同33勝の森本真祐さんが、あなたのキャディをしてくれるという夢のような企画がある。2019年10月に2人が中心となって立ち上げた日本プロキャディ協会が提供するサービスの一環だ。今回、昨年「日本女子プロゴルフ選手権」が開催されたチェリーヒルズGC(兵庫県)で、同コースのメンバーたちが参加したそのラウンド会に密着した。
その前に、じつはこのラウンド実現はそう簡単なことではない。両キャディの日程的な問題を別にしても、通常は外部の人がキャディとしてラウンドに帯同できる仕組みはない。2014年に価格競争からの脱却を目指し、メンバー重視へと舵を切ったチェリーヒルズGCの稲葉正樹・副支配人は「メンバーさんにより良いスコアを出して、よりゴルフを楽しんでもらいたい」とこの企画に賛同した。同クラブでは他にもクラブハウス前に広大な練習場を整備したり、田中秀道ら所属プロによる15分の無料レッスンを提供するなど、メンバーシップの価値創出に努めている。
<< 下に続く >>
今回のラウンドは、プレーヤー4人にコースキャディが1人、さらにプロキャディが帯同するという形。「打ち方ではなく、コースをうまく回る方法を教えたい」という森本キャディと、「ゴルフは2回打てないので、普段通りのプレーをしてもらいたい」という清水キャディ。個性の違う2人が、参加した2組にそれぞれ9ホールずつ帯同して前半と後半で入れ替わる方式だ。
さて、前半の担当は“ノリさん”こと清水キャディ。谷口徹や上田桃子、イ・ボミといった選手たちを賞金王(女王)に導いてきた名キャディだが、スタートティでは「プロでも最初は緊張するので、打てるところにあれば十分です」と思い切りハードルを下げてくれた。優しい笑顔で「最初の数ホールは、グリーンセンターにのればOKです」と諭してくれるが、これはゴルフの調子やコースコンディションが未知数な中で、怪我なく18ホールの流れを作るための序盤の大事な戦略だという。
マネジメントに関して印象に残ったのは、「『ピンの右を狙ってください』と言うと、アマチュアの方は1ピンくらい右を狙うんです。それって、ほぼピンを狙うのと変わりません。プロはもっと右、グリーンの右端からピンまでの広いエリアを狙います」という言葉。グリーン上でも、アマチュアの読むラインは浅く、意識がカップばかりに向いているという。コースを広く使えば、より安全な攻めができる。「ハンデの少ない人ほど、簡単に横に出します」というように、大きな危険を回避しながら攻めていくことが、好スコアへの近道だという。
昼食後の後半は森本キャディにバトンタッチ。清水キャディの助言とは一変して、「ここは頑張ってピンを狙っていきましょう!」と(ホールロケーションにもよるけれど)プレーヤーの背中を押してくれるタイプだ。ティイングエリアに立つと、必ず後方から全体の向きやティマーカーの方向を確認して「右に誘っているので注意してください」など、コースの罠を見つけてくれる。「打ち上げホールでは出球がライナーで低く出るイメージ。逆に打ち下ろしでは、目線が下がらないようにティと同じ高さに目標を定めて」と、スイング以前の注意点も教えてくれた。
グリーンでは、メンバーすら気づいていなかった傾斜の錯覚を指摘して、「ゴルフ場ができる前の地形を考えてください。周囲に木があるなら、その根っこの高さを比べると、どちらが高いのか分かります」と、あまり人に言ったことがないというライン読みの極意を明かしてくれた。
今回、両キャディが教えてくれたのは、ただ漫然とラウンドしているだけでは気付かない、うまくラウンドするための知恵だった。それでも、2人が持っている引き出しのほんのわずかな部分に違いない。より高いレベルのゴルフになれば、攻めと守りのバランスや、プレッシャーの対処法、気持ちの切り替えといった精神面が重要さを増してくる。個人競技とはいえ、プレー中はキャディが唯一の味方である。選手を発奮させるか、落ち着かせるか…。声掛けひとつで次のショットが変わってくる。そんな繊細な領域でキャディの真価は問われるのだろう。
最近はスループレーやセルフプレーが増えて、手軽にラウンドできるようになったのは素晴らしいことだが、ゴルフではキャディとの二人三脚も許されている。今回参加したメンバーの1人による「良いコースというのは、良いキャディがいるコースだと思います」という指摘には、まさに正鵠を射る思いがした。
日本プロキャディ協会としては、今後はハウスキャディ教育にも力を入れていきたいという。ゴルフをより奥深く楽しむとき、プレーヤーの隣にはきっと頼もしいキャディが寄り添っているはずだ。(編集部・今岡涼太)
【関連リンク】
日本プロキャディ協会(https://procaddy.or.jp/)
チェリーヒルズGC(https://www.chgc.jp/)
今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka