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歴史変えた日本人 中嶋常幸が「ダンロップフェニックス」に望むこと

◇国内男子◇ダンロップフェニックストーナメント 初日(16日)◇フェニックスCC(宮崎)◇7042yd(パー71)

スタート前の練習場に足を踏み入れる直前、松山英樹がつぶやいた。「中嶋さん、めっちゃ振れてる…!」。あさイチのドライビングレンジで球を打ち込んでいたのは69歳の中嶋常幸青木功とのオナラリースタート(名誉スタート)に備えて、まるでいつもの試合に備えるかのようにウェッジから、あらゆるクラブの感触を確かめていた。

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1974年の初開催から50回目の記念大会。日本ゴルフツアー機構(JGTO)の青木・現会長と、日本人選手として初めて本大会で優勝した中嶋によるティオフ前の始球式。晴れ渡った午前8時の1番ティから、どちらも1Wショットを放った。

試合には出ないレジェンドにとって、“本番”はこの一球。それにもかかわらず、中嶋は事前準備に余念がなかった。「一発のために呼ばれているんだから、その一発は完ぺきに打ちたいわけだよ」。前座であろうが、本気を注ぎ込んだ一打。力強いボールはフェアウェイ左サイドをとらえ、ギャラリーをしっかり沸かせた。

1985年、中嶋は最終日の13番で2打目をカップに沈めるイーグルをハイライトにして、セベ・バレステロス(スペイン)を破った。「最終日は3日目までと風向きが違った。ティショットを3Wで打って、狙い通りのところから入った」と当時を振り返る。

戦後の新婚旅行のメッカだった宮崎に大型リゾート施設、フェニックスリゾートを生んだ故・佐藤棟良(さとう・むねよし)氏の尽力によりスタートした大会。「第1回大会から(ジャック・)ニクラスが来たことが大きかったと思う。当時、ニクラスが来るか、来ないかというのは本当に大きな話で、フェニックスは特別な存在になった」と、“帝王”の招聘(しょうへい)こそが発展の道筋になった。

日米ツアーでまだ賞金額に大きな差がなかった時代の話ではある。名選手がこぞって出場する異色の大会は初代王者のジョニー・ミラーから、バレステロス、トム・ワトソンら海外勢がやはり圧倒した。そんな中、中嶋らは「“とうりょう”さん(棟良氏の愛称)は、『いつか日本人選手に勝ってもらいたい』と言い続けていた」といつもエールを送られていた。

「特にね、AONに勝ってもらいたいという気持ちが強かった気もする。(全盛期の)3人が実力をどう発揮するのか、それを見たいと。僕も『いつか勝ちたい。日本人で最初に勝つなら自分だ』と奮い立させてきた。この試合が励みになった」

中嶋に遅れること9年、尾崎は94年から3連覇した。そして青木は、勝てなかった。「一番の思い出はプレーオフに負けたことかな(91年)。中嶋プロはここに名前を刻んだけれど私は刻んでいない。それだけに苦しいが、それを追い求めてここまでやってきたのが私の人生だと思う」。ダンロップフェニックスは彼らにとってそういう存在だった。

時は流れ、AONがフィールドから去って数年が経った。この日、中嶋と青木が打ったのは“未来のボール”。ダンロップが開発したZ-STAR +e(ゼットスター プラス イー)は、環境に配慮したコンセプト製品(非発売)。従来の石油ではなく、トウモロコシから抽出したバイオウレタンをカバーに配合した。同社は2050年にすべてのゴルフボールのサステナブル原材料比率を100%にする目標を立てている。

実際に打った中嶋は「あ、これ良いじゃん」と好印象を持ったという。「(現行の製品と)100%(感触は)同じではないんだよ。変わらないわけではないし、打って、違う気もするけれど、これ良いじゃんみたいな」。あらゆるゴルファーにとってスタンダードになる日も、そう遠くないかもしれない。

中嶋は大会の51回目、次の10回、50回…を見据え、最後に「この大会に望むこと、願うことがひとつある」と言った。「85年に勝ってアメリカに行ったとき、『フェニックスの優勝、おめでとう』と外国の選手に言われたんだ」。ライバルたちもうらやむ母国のタイトルは、海の向こうでこそ誇らしかった。「そういう大会にまた戻ってほしい。そう言われる試合になってほしい、俺はそう思ってるよ」。レジェンドからの次世代へのエールだ。(宮崎市/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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