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青シャツとペンギンが語る賞金王・松山英樹の強さ

中学・高校時代を過ごした高知で決めた松山英樹の賞金王。ふと目を上げれば、雄大な太平洋が広い空に溶け込んでいく“青”に包まれたKochi黒潮CCは、最終日に松山が袖を通したシャツの色と無縁ではなかったはずだ。

史上初めてルーキーで賞金王まで上り詰めた松山の基礎は、ここ高知で固められた。愛媛の中学校から、ゴルフ修行のために中学2年4月に高知・明徳義塾中学校に編入した。同時に始まったのは寮生活。「不安はなかったっすよ」と鼻で笑う松山だが、寮では朝礼、夕礼、授業、クラブ活動、食事と時間割が細かく決められた集団生活の日々。だが、そこには“ゴルフ”があった。

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当時、明徳義塾ゴルフ部の監督を務めていた高橋章夫さんは言う。「朝早くから練習をして、昼休みにも練習する。これまでの生徒の中で、確実に一番練習していましたね。ゴルフさえあればいい、という感じでした」。

松山を語る時に必ず出てくる“監督”という存在。高橋さんはその役割をこう説明する。「我々は中高なので、スポーツマンとしての人間的な強さを指導します。たとえば、ちゃらちゃらした服装をしないとか、全部の試合に出させないとか。ひもじい思いをしながら練習をする。試合に対する集中力を高めて、試合を目標に練習する。そうしないと本当の強さは出てこないんです」。

とはいえ、松山にとっては好きなゴルフに打ち込める絶好の環境だったのか、今でもよくふらりと明徳義塾の職員室に顔を出しては、先生たちと談笑しているのだという。もちろん、今週の試合前にも・・・。

高校卒業時、松山と進路について話し合ったという高橋さん。「アメリカに行きたいか?って聞いたら、『行きたい』って言うんです。でも、まだアメリカで戦うには、足りないものが多かった。それよりも大学に行って、日本一になれば、知ってくれる人や応援してくれる人が増えてくる。その方が、もっと大きくなりそうだと感じたんです」。

勧めたのは杜の都・仙台にある東北福祉大。「あそこはオフがあるでしょう。冬の間はラウンドできない。設備もいいけど、そういう時期があるのもいいと思うんです」。ひもじさ、つまりゴルフに対するハングリーさを大事にする高橋さんならではの発想が、松山の背中を押し、高橋さんとは“旧知の酒飲み友達”という東北福祉大ゴルフ部の阿部靖彦監督に、育成のバトンは渡された。

阿部監督も、松山にゴルフを教えることはない。「ゴルフの前に、一人の人間として指導するのが僕らの仕事。将来の目標を定め、そこに向けて何をすべきか、今なにをやるべきかを考えさせる」。松山のラウンド中の修正能力や、新しい環境に対する対応能力は、こうした環境でゆっくりと培われていった。

プロ1年目から積極的に海外へ出た松山の今季の出場試合を見れば、阿部監督の言葉の意味も理解できる。「もし今年、米ツアーに行かないで、日本だけでやっていたらもっと簡単に賞金王になれたかもしれない。でも、それだけを目標にしたのでは器が小さい。さらに上に行くためには何が大切か。日々の積み重ねの先にしか未来はないんです」。

その結果として掴んだ賞金王。だが、松山は“通過点”という言葉には首をひねった。「これがまた来年になればゼロになるし、1年1年の勝負。日本ツアーでやっているものをしっかりと海外、メジャーに行ってもできるようにしたい。それをやっていかないと勝てないので」。

優勝争いを見守りながら、明徳義塾前監督の高橋さんと松山の米ツアーでの可能性について話が及んだ。「あいつがこのまま変わらなかったら大丈夫じゃないですか」と言う。「ゴルフに対する素直な気持ち、ゴルフができたらいいんだという気持ちを持ち続けたら。今だって東北福祉大の(ペンギンの付いた)ユニフォームを着ているでしょう。格好とかじゃないんです」。

史上初めてルーキーで賞金王を獲得し、来季の米ツアー本格参戦を前にした松山には、いくつものスポンサー候補が名乗りを上げており、今後はおそらく、ビジネスの世界に否応なく巻き込まれていくことになる。

心強いのは、賞金王誕生を見守った南国・土佐の海と空が、純粋なゴルフと共にいつもこの地で待っていることだろう。「もう会っても“頑張れ”とは言わないんです。“また飯食おうや”とか、そんな感じで」と遠くを眺める高橋前監督のように。(高知県芸西村/今岡涼太)

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