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眠れなかった優勝前夜 上田桃子を奮い立たせた王貞治氏の恩師の言葉

◇国内女子◇中京テレビ・ブリヂストンレディスオープン 最終日(21日)◇中京GC石野コース(愛知)◇6401yd(パー72)

3季ぶりの復活優勝を遂げる前夜。上田桃子はホテルの部屋で恐怖心に襲われていた。「わたしは本当に勝てるのかな」――。

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目を閉じると、残酷な光景が浮かんだ。4月の「KKT杯バンテリンレディス」と昨年の「ヨネックスレディス」。どちらもプレーオフで敗れた。チャンスをたぐり寄せながら「わたしよりも遠い位置からパットを決める選手に逆転される」。自信を失いかけていた。

眠りについたと思っても、すぐに目覚めた。「頭の中を整理したくて」と、パターを握り鏡の前で素振りした。そこに、辻村明志コーチから携帯電話で写真が届いた。「桃子の練習量はすごい。俺の練習にこれだけついてこられた奴はほとんどいない。みんな30分程度で音を上げるのに。だから大丈夫」。昨年12月に急逝した荒川博氏(享年86歳)の日記に書かれた文字だった。

野球の打撃コーチとして王貞治氏らを育て上げた名伯楽。合気道6段でもあり、独自の理論で晩年はゴルファーも教えた。師事した上田は、死去の1カ月前まで一緒に練習した。『気を沸き出させて打つ』という教えに基づき、息を止めて素振り。通常は30分程度の厳しいトレーニングだが、上田は2時間耐えたことがあった。「先生の練習は本当にきつくて、もどしたこともあったくらい」と明かした。

2007年に賞金女王を獲った。米ツアー挑戦後は環境の変化にも苦しみ、本来のショット力は低下した。2015年以降は優勝から遠ざかり、「つらい経験の方が多かった」と何度も心は折れかけた。「優勝したいって気持ちがなくなったら、辞めるときだと思っている」。自問自答を繰り返し、30歳を超えた昨年、ショットを一から見直すことに決めた。なりふり構わず練習に明け暮れた。

優勝会見で引退の選択肢も考えていたことを明かした。「これだけ練習しているんだから、これで勝てなかったら辞めようという覚悟だった」。ショットは万全だった前日のラウンド後も、練習場で球を打った。母・八重子さんは「パターだけすると思ったのに。困っちゃうわよね」と、ストイックな娘を笑顔で見守った。

ショットメーカーは本来の輝きを取り戻しつつある。この日のパーオンは13ホールと3日間で最も少なかったが、それでも序盤から2m以内にからめて3連続バーディ発進として抜け出した。

最後は運も味方した。1打リードで迎えた最終18番。50度のウェッジで打ったフェアウェイから残り107ydの2打目は左に出た。グリーンで弾むと、池に向かって強い傾斜のある左サイドに転がっていった。悲鳴に似た声が飛んだ。ギリギリで、カラーで止まって池ポチャを回避した。「まだまだですね。危なかった」と安堵した。

3年ぶりに優勝カップを掲げた。目は真っ赤だった。「みんな見守ってくれているんですかね―」。真っ青な空の下で、穏やかな笑みを浮かべた。(愛知県豊田市/林洋平)

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