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「外しても命は取られない」 元“天才少年”伊藤誠道29歳の開き直り

◇国内男子◇カシオワールドオープン 初日(21日)◇Kochi黒潮CC(高知)◇7350yd(パー72)◇晴れ(観衆1622人)

18ホールのうち4つあるパー3はどれも「右からの風が吹くことが多い」と言う。ドローボールヒッターの伊藤誠道はこれまで「カシオワールドオープン」の舞台であるKochi黒潮CCの各ホールを攻めあぐねていた。

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今年も、初日のティオフから3つ目のパー3(後半11番)まで全てパーオンに失敗した。苦手意識を払しょくできずにいたが、迎えた後半14番でまさかの一打が。7Iでのティショットがグリーン右手前に切られたカップに飛び込んだ。「気持ち良く(ボールを)右に出して風に乗っけていったらうまいこといった」と喜ぶ会心のホールインワン。11番のダブルボギーを“帳消し”にする一撃が5アンダーの9位発進につながった。

ツアーでのエース達成は2012年「キヤノンオープン」以来2回目。その12年前、伊藤は17歳のアマチュアだった。小学生時代から天才ゴルフ少年として世に知られ、09年には「KBCオーガスタ」で14歳21日のツアー最年少予選通過記録を樹立。東京・杉並学院高2年時の冬に17歳でプロ転向し、翌年には下部ABEMAツアーを最年少(18歳29日)で制した。

若かりし頃の栄光に比べれば、その後の道のりには影が際立つ。レギュラーツアーでのシード獲得経験がないまま、8月で29歳になった。「プロになる時は『いけるだろう』と思ったんですけど、やっぱり甘くなかったというか…。足りないことが多すぎて、それを補おうとしてもう12年経ってしまった」。打ち立てた数々の年少記録も、いまは「そんなこともありましたね、という心境」と遠い記憶でしかない。

気付けば、たくさんの後輩選手たちが前を走っている。忸怩(じくじ)たる思いを抱えながら、伊藤はいま実直に自分を見つめている。昨年ABEMAツアーで賞金ランキング5位に入って、レギュラーツアーで今シーズンの開幕を迎えた。賞金ランキングはシード獲得のボーダーラインとなる上位65人に及ばない90位という低迷の原因も自覚しつつある。

「レギュラーツアーに出ている人は『みんな、すげえうまいんだろうな』と思って、自分に高望みをし過ぎていた。でも、上にいる人たちって一つのことをずっと突き詰めているというか…。練習場で見てそう思ったんです。だから僕もいろんなことをせずに1個のことを決めてやろうと。やり続けてきたので、この秋はちょっと良くなったのかな」

優勝に近い位置でフィニッシュすれば“一発逆転シード”も夢ではない試合でも、気持ちは謙虚。「僕の位置はもうワンチャンスくらいしかない。来週からあるQTにどういう状態で臨めるかを日々考えながら高知入りした」と目線は来季出場権をかけた予選会に向いている。

「16歳くらいから『パターを外したら、死んでしまう』くらいに思ってやっていたんですけどね。最近になって『外しても命は取られない』って開き直って自分を見られるようになった。そうすると体もしっかり動く。悟ったというか、大人になったっていうか」と笑う。「20代で良いことも、悪いことも全部経験してきた。メンタルも、何もかもが、いまプロゴルファーになってきた感じです」。見方を変えれば、まだ29歳。同じような道を進んできた選手はそういない。(高知県芸西村/桂川洋一)

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