オージーとも仲良し 2勝目を狙う重永亜斗夢の交遊録
重永アトムは難病にも負けない 石川&片山を破る初勝利
◇国内男子◇東建ホームメイトカップ 最終日(15日)◇東建多度カントリークラブ・名古屋(三重)◇7081yd(パー71)
29歳の重永亜斗夢が百戦錬磨の猛者たちを破った。4打差の単独首位からスタートし「73」とスコアを落としながら、通算12アンダー。最終組で一緒に回ったツアー14勝の石川遼、31勝の片山晋呉に競り勝ち、悲願の初勝利を飾った。
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前日までに積み上げた後続との差が簡単に縮まっても強い心で戦った。1番でバーディ発進を決めながら、6番(パー3)でティショットをグリーン右の池に入れてダブルボギー。7番、9番をボギーとしハーフターンまでに2位・石川とは1打差になった。
キャリアで4度目の最終日最終組。「今までなら順位を見て、『あといくつ落としたら、トップ10からも外れるだろう』と思っていた」というが、この日は違った。リードする立場であっても「とりあえず、遼について行こう」と胸に誓った。10番、16番(パー3)ではグリーンサイドから絶妙なアプローチで“寄せワン”のパーを拾い、17番(パー5)では残り191ydの第2打を6Iでピン右7mにつけ、2パットバーディで石川を最後まで並ばせなかった。
週の初めから、ドローヒッターながらカット軌道に近いスイングになっていることに頭を悩ませていた。この日も左からの風に対し、ボールが右に力なく曲がるミスが出た。「でも今年からミスに怒らない、愚痴をこぼさないようにしようと決めたんです」。ゲームの中での失敗を気にせず、“割り切る力”をつけてきた。
小さい頃から大勢の人の前で名前を呼ばれるのが苦手だった。学校で、病院で。アトムは“鉄腕”どころか、お腹が弱いという持病がある。国が難病指定している潰瘍性大腸炎に苦しんでおり、安倍晋三首相らと同じ薬を服用している。腹痛に悶えトイレに駆け込む毎日。懸命に食べても吸収力が弱く、60kgの体重を増やすことがなかなかできない。そんな日々を乗り越え、2015年以降レギュラーツアーに定着。今では「こういう名前だから、人がすぐに覚えてくれる。得をしていると思えます」と胸を張れるようになった。
「10万馬力? 出ないですよ。僕は馬じゃないですから…」と笑う。ロボットじゃない、人間のアトムはたくましいハートで競り勝った。「永久シード選手の片山さん、一時代を築いた石川遼と最終日最終組を回って勝てたのは死ぬまで自慢できます」と振り返った。
最終18番、10cmあまりのウィニングパットを前に「ゆっくりマークして、ゆっくり優勝の瞬間をかみ締めなさい」。最後にそう声をかけてくれたのは片山だった。「遼くんに勝ってすみません!」。集まったギャラリーに表彰式でそう“謝罪”した先のスタンドからは、温かい拍手が返ってきた。(三重県桑名市/桂川洋一)