優勝請負人も「ゲーム感覚」だった全盛期 “チーム イ・ボミ”の証言(1)
「HONMA」ブランドを変えた笑顔 “チーム イ・ボミ”の証言(2)
日本女子ツアーで2015年から2年連続賞金女王に輝いたイ・ボミ(韓国)が今季限りで現役を引退する。長らく日韓のファンを魅了してきた“スマイルキャンディ”を支えた「チーム イ・ボミ」のスタッフへのインタビュー連載。第2回は用具使用契約を結ぶ本間ゴルフのツアーレップ井上友之氏(以下敬称略)が、老若男女に愛されるボミの人柄をひも解いた。
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単年契約からのスタート
2013年、ボミは本間ゴルフと用具契約を締結した。前年は他社のクラブを使用して3勝を挙げ、賞金ランキング2位。さらなる活躍を期して同社を新しいパートナーに選び、山形県にある酒田工場を訪れてクラブの製造にも触れてきた。
当初は単年契約で、結果次第で“破局”の可能性があった。井上は「当時はまだカタコトだった」という日本語で話すボミと綿密に情報を共有。大事にしているクラブの“振り感”や、ヘッド形状の好みを探り、数クラブの受け渡しを繰り返してきた。「お互いの歩み寄りがなければいい関係にはならない。そういう意味ではボミさんがいい関係に“させて”くれた」。
言葉だけでは把握できない部分は練習ラウンドに帯同したりして補った。平らではないライからのショットを見ては「クラブの重心を動かして捕まらないように」、「シャフトで挙動を抑えよう」といった具合に微調整を施した。契約後初勝利の2013年「日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯」は今も色あせない記憶の一つだ。
メーカーの新作クラブが時には好みではない形状でも、ボミは「ホンマさんのために」と打ち込み、惜しみなくフィードバックをくれる選手でもあった。「優勝するたびにハグをし合って『いつもありがとう』と(言われた)。目標を達成したらお互いをたたえ合う。感謝の気持ちをみんなに言ってくれて、報われる。そういう気持ちにさせてくれる」
ファンと驚きの交流
人を思いやれる選手。だからこそ、一人、また一人とファンが増えていったのかもしれない。井上はボミだからこそ起きた出来事を振り返る。「2015年ぐらいかな。『一緒にボミを盛り上げましょう』と、ファンクラブ用にキャップとサンバイザー、それぞれメンズ用とレディース用の2サイズをうちの会社で卸したんです」。実際にかぶる帽子と同じ型で、つばにはボミの似顔絵。合わせて300個近くを用意した。
同社のロゴが入った帽子をかぶるボミの宣伝効果は大きく、「それまで、年齢が高い男性向けブランドだったのが、彼女のおかげで、子どもも帽子をかぶってくれるブランドになった。あれだけ愛される選手はいない。もう出てこないとも思う」と井上は目を細めて語る。
試合会場でサイン会を実施すれば長蛇の列。日本だけでなく、母国からもギャラリーが殺到し、選手と来場者を仕切る仮設フェンスが壊れたのを理由に、ファンサービスの時間が終了する事態もあった。「ちょっとアメリカンなところがあって、普通だったら『よろしくお願いします』と握手ぐらいで終わるところも、笑顔で寄ってきてくれる。言葉が悪くなるけど“人たらし”かな?」。人懐っこい笑顔に加え、天性の親しみやすさがまた人を集めた。
ファンを思いやる心遣いはコース外でも見られた。「(試合から)帰りの空港でファンの人に(偶然)会って、『みんなでご飯を食べましょう』ということもあった。そもそもボミのお母さん(ファジャさん)がファンを大事にする人ではあったけど、勝った時だけではなくて、優勝を逃した時もやったりして」。手厚いファンサービスは老若男女の声援を生み、熱狂的なムーブメントを巻き起こした。それは、ブランドの垣根を越えてゴルフ界の一時代を築いたとも言える。
今年1月23日、同社の新橋店で行われた撮影会で顔を合わせ、「今年もよろしくお願いします」と言葉を交わした。現役選手として過ごす時間は限られていく。ただ、寄り添い、寄り添われる関係は変わらない。(編集部・石井操)
■ 井上友之
1975年、東京都生まれ。2012年12月に本間ゴルフに入社。マーケティング本部プロサポート部に所属し、ツアーレップとして13年から用具契約を結ぶイ・ボミらを担当。