ツアープレーヤーたちの職業柄<野上貴夫>
2008/04/07 09:36
先月中旬、ひょんな場所でジャパンゴルフツアーメンバーに遭遇した。韓国・済州島の空の入り口「済州国際空港」にフラリと現れたのは野上貴夫。2005年のウッドワン広島オープンでツアー初優勝をあげた、プロ13年目の選手だ。
折しも、その前日まで欧州とアジア共催のバランタイン選手権が行われていた。野上は、最終日の翌月曜日の関空行きの直行便で帰路につくところだったのだが、彼の顔を見た瞬間おもわず「こんなとこで、何してるんですか?!」と、少々失礼な質問をしてしまった。というのも野上は、同大会には出場していなかったからだ。
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「何言ってんですか、出てましたよぉ! 見てくれなかったんですかぁ…?」と、わざとイジけたように冗談を言ったあと打ち明けた。「実は、今日まで営業していたんですよ」。
同大会のスポンサーは、世界的に有名な高級ウィスキー「バランタイン」。その輸入代理店のみなさんを対象にした“大会観戦ツアー”にゲストプロとして参加。さらに最終日の翌日には会場となったピンクスゴルフクラブで、ラウンドレッスンの講師をつとめたのだという。
「トレーニングやスイング調整だけしているわけじゃないんです。ゴルフ界発展の一助になればと、オフもこうして“営業活動”をして僕らも頑張っているというわけなんです」と、ちょっと得意げ。しかもツアーきっての飛ばし屋は、この日のラウンドでもドライバーが炸裂。「360ヤード以上は飛んでいた」というから、頼もしい限りだ。またスコアも1日4アンダーをマークして、「もし試合に出ていたら優勝争いしていたかも…!!」と、誇らしげに胸を張る。
済州島は日本と目と鼻の先。そんな話をしているうちに、あっという間に飛行機は着陸した。入国審査を受けて、手荷物カウンターへ。カートを押してバッグが流れ出てくるのを待っていたときだった。プロがふいに床を指差して、声をあげたから驚いた。「あぁっ、デベソですよっ!」。何事かと足元を見ると、ベルトコンベアーの台の周りにグルリと赤いラインが引かれ、さらにはこんな注意書きが…。
『カートSTOP!!』。
手荷物カートはこのラインを超えて立ち入らないようにと警告する赤線を、わずかにはみ出していたのだ。拍子抜けして「な~んだ…。これくらいいいじゃないですか~」と、なかば呆れ気味に答えると、プロはブンブンと首を振る。「いいえ、ダメです。“デベソ”は2ペナルティも取られちゃうんですよ!」。さきほどから野上が連呼している「デベソ」とは、ティーインググラウンドでティーマークをはみ出してティーアップすることを指す。この違反には2打罰が与えられるだけに、キャディに再度チェックしてもらったり、プロが試合中に神経を使う部分でもある。
「職業柄ですかね~。普段の生活でも何かの線からはみ出したりすると、僕はすごく気になっちゃうたちで」。そう言いながら、赤いラインをしきりに意識する様子がおかしくて、すかさず持っていたカメラでプロを激写。…と、そんな他愛ないことで笑い転げていた我々のもとへ、税関の職員さんが飛んできた。両手の人差し指で何度もペケマークを作りながら、「カメラ、ダメですよっ!!」。と、お叱りを受けてしまった。どうやら、写真撮影禁止区域だったらしい(トホホ)。
悪かったのは写真を撮ったこちらのほうで、ご本人にはまったく非がないのに「ス、スミマセンっ!」と、なぜか一緒に頭を下げてくれた野上プロ。…とてもいいヒトです。ちなみに、注意を受けた問題の写真はお蔵入りが決定しましたので、かわりに済州空港の免税店の前で撮った写真でお楽しみください…。