個性派のツアープレーヤーたち<竹本直哉>
2008/02/18 09:21
先週、ジャパンゴルフツアーのHPあてに読者の方からご意見をいただいた。昨年の賞金ランク29位で今季初シード入りを果たした竹本直哉を取り上げた記事の中で、彼のスイングの特徴として「ドライバーのティショットからターフを取る個性的なスイング」と書いたのだが、この記述に対してこんなふうに書かれていた。
「彼はダウンブローで打つので、確かにスプーンとかバフィなら時々そういうこともあるが、プロがドライバーでターフを取るなんてありえないのではないか…」。
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これは、かなりのゴルフ通、かつゴルフトーナメント通の方からの投書と思われる。非常にありがたいことである。ゴルフにあまり詳しくない方にもご理解いただけるよう簡単に解説すると、投書の中の「ダウンブロー」とは「スウィングアークの最下点の手前でボールをヒットすること」である。ボールを打った後もクラブヘッドが下降するため、ボールより先の芝を削り取る。この削り取られた芝が「ターフ」である。
一般的にはアイアンショット時にこの軌道で打つのが理想とされるが、竹本はウッドのスイングでも同様の打ち方をする。しかしそれにしても、ドライバーで打つときはティアップをするのだから、「いくらなんでもターフは取らないだろう」との思いから、ご指摘くださったのであろう。さもありなん、のご意見である。
ところが、これについて本人を直撃したところ、こんな言葉が返ってきたのだ。
「HPの言葉は間違っていませんよ。だって僕は実際に、ドライバーでターフを取るときもありますからね(笑)。証人が必要なら、片山(晋呉)さんにも聞いてみてください(笑)。普通では確かに考えられないですが、まぁツアーメンバーにも1人ぐらいこんなヤツがいてもいいんじゃないでしょうか(笑)」。
もともと、彼のスイングにはたくさんの目撃証言があった。たまたま同じ組になった選手たちが言ったものだ。「ドライバーでターフを取るヤツも珍しい」と。それは、いつしかツアーでも語り草となり「ティグラウンドにターフの跡があったら、竹本のだと思え」が合言葉になったほどだ。
そんな独特のスイングが日の目を見たのは片山との激しいバトルの末に、自己最高の2位につけた昨年7月のUBS日本ゴルフツアー選手権 宍戸ヒルズだった。17番で奥から12ヤードのアプローチを直接入れて、賞金王を2打差まで追い詰めた瞬間に見せた、睨み付けるような鋭い視線がNHKの中継でも大写しになり、けっこうなインパクトを与えたものだ。
ファンからは「ものすごくカッコよかった」という大反響が巻き起こり、片山には「竹本クンの存在が、ゲームを最高に面白くした」と言わしめたが、実はこの優勝争いの最中にも、例のあのショットが出たそうである。
当時を振り返って竹本が言う。
「僕がドライバーでターフを取った瞬間に、シンゴさんは苦笑いしてましたけどね(笑)。僕の場合、緊張して力が入るほど、思ったより上からクラブが来るんです。ミスショット…には違いないんですが、僕的にはフェード(スライス)で右に行くのは許せるミス。そのためにはやっぱり上から(アウトサイド)ヘッドが来ますから、まぁその…ちょっと行き過ぎたスイングであるんですが、絶対に左には行かないミスなんで、自分としては“使える”ミス。実際に、あれが出るときは大体ティショットがフェアウェーに行きますし、極端な話、10回中8回真っ直ぐで後の2回がどこ行くかわからないより、10回中10回分かってるミス(僕の場合はスライス)をしているほうが、スコアが作りやすいんですよ」。
ゴルフはミスのスポーツとはよく言われることだが、「それは、言い換えればいかに上手くミスするかを問われているスポーツだと僕は思っていますからね」と、竹本は言うのである。
ある大会で、同じ組で回った先輩プロに「竹本はもうちょっとショットの練習をしないとな」とチクリと言われることもしばしばだ。しかし、「ほんっと、僕ってショットがヘタクソでねえ」と、落ち込む素振りは微塵もなく「でもだからこそ、まだまだ自分は上手くなれると思えるし、また練習して上手くなっていくことが、僕には楽しくてたまらないんですよ」とあっけらかんと笑い、「プロにも1人ぐらいこんなヤツがいてもいい」と、平然と言ってのける。底抜けのプラス思考が持ち味だ。それに、ショットを補って有り余るショートゲームの巧みさは、ほかのトッププレーヤーたちも認めるところだ。
女手ひとつで育ててくれた母・茂美さんは女子プロゴルファーでもあるが「ゴルフはほとんど独学で覚えた」とは本人の弁。15歳で単身渡米。高校、大学とゴルフ部で腕を磨き、帰国後すぐにツアープレーヤーを目指してファイナルQTに挑戦。5度目の2006年に出場優先順位5位の資格でツアー本格参戦を果たし、さらに2年後の昨シーズン、ようやく念願の初シード入りを決めたニューフェイス。
今年、ティグラウンドで特大のターフを飛ばしている新顔を見かけたら、彼だと思っていただいて間違いない!?