ツアープレーヤーたちの恩人<藤田寛之>
2008/01/28 09:13
5年ぶり2度目の賞金王に輝いた谷口徹。もちろん、そこにたどり着くまでの本人の努力と実力もさることながら、実は昨年の大躍進を支えた陰の立役者がいた。
賞金ランク8位の藤田寛之だ。
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「いろいろ試してみたい」と、年の初めにクラブ契約を解除してフリーで戦っていた谷口が、1本のドライバーに興味を示したのが昨年の7月。たまたま練習場で一緒になった藤田のバッグを覗き込み、「一度、ビッケ(藤田の愛称)のクラブを打たせてもらおうかな…」と、つぶやいた。まさにこの瞬間を、藤田は逃さなかった。「ぜひ打ってみてください」と、その場で契約先であるヤマハのスタッフに約束を取り付けて、翌週の“試打会”を段取り。さらに話はとんとん拍子に進み、たった2、3球打ってみただけで「これを使わせてもらう」と即断した谷口は、さっそくその週末になんと2週連続優勝を達成してしまうのだ。
藤田はいう。
「実は、以前から谷口さんのスイングにはうちのクラブが絶対に合う、と思っていたんですよ」。しかし、いまや日本ツアー最高峰といっても良い存在に、自分からそんな提案をすることもさすがにはばかられ、ずっと言い出せないままだった。それだけに願ってもない申し出を、ここでみすみす逃す手はなく、まさに好機とばかりに飛びついた。「うちのクラブの良さを、ぜひ谷口さんにも知ってもらいたい」その一心で熱心にPR。
この藤田の優秀な“営業”ぶりがみごとに奏功し、谷口は続けて10月の日本オープンでも優勝。そして11月には正式にクラブ契約。シーズンも終盤に、選手が契約を結ぶのは大変珍しいことだが、それほどまでに信頼のおけるギアとめぐり合った谷口は、そのままトップを走りきり、5年ぶりの賞金王を勝ち取ったのだった。
藤田は、「そんな…僕はただ橋渡ししただけですから」と謙遜したが、谷口は折に触れて言ったものだ。「ビッケには、何か良いものをご馳走しないとね」と。ひとしきり感謝の気持ちを述べたあとに、やっぱり最後には得意の“ブラックジョーク”も忘れないのだ。「しかし、なんでビッケはあんな良いクラブを使っているのになかなか勝てないのかなあ…!?」。
そんな辛らつな谷口の物言いにも、返す言葉がなかった。藤田自身が一番、それを自覚しているだけに、もっとも痛いところを突かれて思わずうなだれた。結局、昨年も勝ち星をあげられずに終わった悔しさをにじませつつ、「谷口さんのおっしゃるとおりです…」と、がっくりと肩を落としたのだった。
箸にも棒にも掛からないような結果だったのなら、まだ諦めもつく。昨年のみならず、一昨年と合わせて幾度チャンスを迎えただろう。何度も首位に立ちながら、最後に崩れる。優勝は時の運、とはいえ勝利の女神にもすっかり見放された感に、シーズン途中には藤田の口から、「もう僕なんかどうなってもいいんです」と、超・ネガティブ発言まで飛び出す始末…。
「どんな状況でもゴルフを楽しみたい」とか「プレッシャーを楽しむ」といったコメントを言う選手もいるが、藤田は「あんなのウソだ」と、全否定。「ゴルフは、あくまでも良いスコアを出すから楽しいのであって、勝てそうな位置にいながら最後に崩れて周囲の期待も裏切り続けて…そんな状況でゴルフなんか、楽しめるわけがないんです」と、苦しい胸のうちを明かしたことも。
正確無比なショット、小技の巧みさもさることながら、何より人の良さで人気の選手。だが、ただ「いいひと」と呼ばれるばかりでは、この鬱憤が晴れるわけもない。今年は“人助け”もほどほどにして、今度こそ自分のために…。がむしゃらに次のツアー通算6勝目を狙っていきたいところだ。