ツアープレーヤーたちのオフトーク<谷口徹と武藤俊憲>
2007/03/26 01:16
日ごろから憎まれ口ばかり叩いているが、それも愛情の裏返しだ。谷口徹には、武藤俊憲が可愛くて仕方ない。だからこそ、口調もきつくなる。
昨年、武藤がツアー初優勝。しかし「そんなん、勝ったうちにも入らない。ようやくプロになれたようなもの」と手厳しいが、実はその言葉の裏側には「お前なら、もっと勝てるはず」との気持ちがあるのだ。
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武藤の武器は、なんといっても強烈なその飛距離。折に触れて、谷口は言う。「武藤は俺にないものを持っている。俺が武藤なら、毎週だって優勝してみせる」。羨ましいほどの実力を持ちながら、どちらかというとおとなしく、控え目な武藤が、谷口には歯がゆくて仕方ないようだ。
「謙虚なのはいいけれど。それだけではプロとして通用しない」と口を酸っぱくして言い続けているが、逆にそんな性格だからこそ、つい谷口も世話を焼きたくなってしまうというものかもしれない。
今月8日に、岡山の東児が丘マリンヒルズゴルフクラブで行われた、マンシングウェアオープンKSBカップの「地域活性委員会懇親コンペ」に2人揃って特別参加。プレーを終えて、表彰パーティーの開始を待っていたときのことだった。
谷口はさっそく武藤をつかまえて、いつものお説教タイム「おい、むっち~(谷口は武藤のことをそう呼んでいる)。オマエ、ここまで普通席で来たんやって?」。いきなり言われて、武藤はきょとんとしている。
「そうですけど・・・何か?」。
「ああ、もう、ほんまにオマエはケチやなぁ。プロやったら、グリーン車くらい乗らないと!」。
「ええっ?! そ、そういうもんなんですか・・・?」
もちろん、谷口は武藤に「プロだから贅沢しろ」と、言いたかったわけではない。武藤の自宅がある群馬県から東京で乗り継いで、コンペ会場の岡山まで新幹線に乗って約6時間。そんなに長く電車に揺られていると、体にかかる負担は想像以上だ。プロは何より体が資本。せめて移動中くらい、座り心地の良い席でゆっくり体を休めること。そういう日々の小さな心がけが成績につながっていくのだと、谷口は言いたかったようだ。
「グリーン車やファーストクラスに乗ることは、何も贅沢するためじゃなくて。プロとしての自分への投資なんやぞ、むっち~」と諭されて「確かに、谷口さんのおっしゃるとおりです」と、武藤は真摯に頭を垂れた。
プロ転向から5年目の昨年、初シード入り。「貧乏性なのか、いまだに新幹線でグリーン車に乗るという発想が、とっさに出てこない。つい、いつものクセで・・・」と、頭を掻く武藤は今年、トレーナーと専属契約を結ぶ予定だが、それももちろん谷口の影響だ。「谷口さんの言うことは確かにいちいちもっともなんです。僕のことを思って言ってくれているのがすごく分かるし、とってもありがたいんですが・・・」。
歯に衣着せぬ関西弁で、「アホ」とか「ヘタクソ」とか言われ続けていると、さすがの武藤も心穏やかではいられないようだ。「言われっぱなしはやっぱり悔しい。谷口さんには、絶対に負けたくない。今年のいちばんの目標は、谷口さんをやっつけること。“打倒・谷口”しか頭にありません!」と、珍しく強い口調で言い切った。
そんな武藤の様子を見ていると、谷口の“憎まれ口”も、彼なりのひとつの作戦ではないかと思えてくる。キツい言動で若手をやる気にさせておいて、「一緒に、ツアーを盛り上げていこうぜ」というような・・・。
「日本でも海外でも、“予選通過が目標”なんていうプロは、プロやない」と、言い切る谷口。「オマエもたまには“今日は勝ちます”くらい、威勢の良いコメントでアピールしろよ」との武藤へのアドバイスは、そのまま男子ツアー界への呼びかけにも聞こえてくる。