中嶋常幸 プロフィール
ツアープレーヤーたちの願掛け<中嶋常幸>
先の「長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップ」で54歳にして、ワイルドなヒゲ髭姿を披露した中嶋。突然のイメージチェンジには、何か思うところがあるようだがそれはさておき、“おじいちゃん”のおヒゲに思いのほかご執心なのが、孫娘の愛ちゃんだという。
お子ちゃま・・・特に女の子は普通、男性のチクチクゴワゴワのヒゲを敬遠し、大人が調子に乗って、頬にこすりつけようものなら「やだ~」と悲鳴を上げて、逃げ惑いそうなものだが愛ちゃんは違うのだという。
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「おじいちゃんのおヒゲ、気持ちいい~」とむしろ首にしがみついてきて、自らそのぷよぷよほっぺを押しつけてくる。
それがまた可愛らしくて、おじいちゃんはますます「愛ちゃんラブ」となってしまうのだが、どうやら愛ちゃんは、ヒゲだけに関わらずモジャモジャしたものならなんでも興味を持つタイプらしく、毛虫やゴカイなど、中嶋が趣味の釣りに使用する餌も、まったく怖がらないという。
中嶋の妻・律子さんや、中嶋の長女で愛ちゃんのお母さんの佳乃さんが「きゃ~」といって逃げ惑うのを横目に「可愛い~」と言って平気で手に取り、釣りのときもかいがいしく、中嶋のもとへ餌を運んできてくれるのだという。
先月のオフも、十和田湖で愛ちゃんと釣りを楽しんだ。
孫の献身的なアシストもあり、ヒメマス釣りは50センチの大物をヒット。
大喜びの中嶋は「さっそく剥製にしたんだ」と、ヒゲを得意そうにぴくつかせ、その週初日に4位タイ発進と、孫と過ごした充実の夏休みをその原動力としたものだ。
「上が無くなってきたからこっちを伸ばしたというわけじゃないよ」と、ちょっぴり薄くなってきた頭髪を撫でつつ、自虐ギャグで笑わせた無精ヒゲは、「気まぐれだし、いつ剃るかもしれないよ」と話していたから、この2週間のオフで、きれいさっぱり無くなっているかもしれないが、ひそかにそうであって欲しいとも思う。
白髪交じりの54歳のそれは願掛けでもあるからだ。
しかしそれが誰の、何のためであるかは本人は明かさなかった。昨年の日本シニアオープンで、2年ぶり3度目のタイトルを獲得した際にも「病気と闘っている友人のために」と、ウィニングボールをポケットに忍ばせたが、けっして、その友人の名前を明かそうとはしなかった。
あとから、ボールは当時病床にあった日本ゴルフツアー機構(JGTO)の亡き島田幸作・前会長に贈られたことが周辺から知れたが、やっぱり本人の口からは何も語られなかった。
生前、優勝の瞬間をテレビで見届けた島田・前会長は「あのボール、きっと僕に送ってくれるよ」と、妻の和子さんに言ったという。
果たして、翌週にも届いた小包を見て嬉しそうに「ボールか」と、尋ねたという。
10年前のJGTO設立を機に、前会長といっそう親交を深めていった中嶋は、病床にあった大親友をなんとか勇気づけたい一心だったのだ。
そして今回もまた、自らのプレーで元気づけたい大切な相手がいるようだ。
しかし、ラジオのパーソナリティもつとめる話し上手も島田前会長のときと同様に、核心部分はいっさい語らず、目の前の一打と真摯に向き合うのだろう。
大切な誰かの姿を胸に描きながら、「元気づけられるプレーを見せたい」と、今日もトミーは黙々とクラブを握る。