「メディアキット」も様変わり コロナ禍の全米女子オープン撮影記(前編)
2020年 全米女子オープン
期間:12/10〜12/14 場所:チャンピオンズGC(テキサス州)
スマホがないと入国できない!? コロナ禍の全米女子オープン撮影記(後編)
2020/12/19 16:15
見事な雷雲接近予測
渋野日向子プロが単独トップで迎えた最終ラウンド。雷雲接近の予報通り未明から雲が空を覆っていた。何が起きるか分からないから、いろいろな可能性を想定しておこう――。13日(日)のコース到着後は雲の動きを見ながら撮影の準備を始めた。
全米ゴルフ協会(USGA)の判断は早く、最終組がスタートする前に中断のホーンを鳴らした。まだ雨が降る前で、雷音もない。ただUSGAが参考にする、正確に雷雲の動きをチェックする天候予測のデータは見事なまでに正しかった。すぐに大雨が降り、遠くで雷の音が聞こえてきた。
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順延が良い休養になれば
複数の組がティオフしていたが、試合は再開されることなく昼過ぎには翌日への順延が決まった。第3ラウンド終了後の前日は居残り練習を最後まで続けていた渋野プロ。この日は帰路につくときに「お疲れさまでした」と元気よく挨拶してくれた。練習日から多くのラウンドを重ねてきた疲労感はどうなのだろう。順延が良い休養になるといいな、と思った。
メジャー大会では、順延の可能性を踏まえて週明けの火曜日に帰国便を予約する報道陣が多い。スムーズに試合が終わり月曜日は現地休になってしまうケースがほとんどだが、今回は違う。改めて最終ラウンドに向けて気持ちを引き締め直した。
厳寒のなか、シャッターを切れるだけ切った
翌朝のヒューストンは真冬の厳しい寒さに襲われた。前日までと比べ10度以上気温は低く、持ってきていた服を重ね着した。最終組から出た渋野プロについて歩きシャッターを切れるだけ切った。最後の最後までもつれた優勝争いを制することはできなかった。
もちろん優勝を期待していたし、優勝を勝ち取れる選手だったと思うだけに悔しさはあった。ただ初出場の「全米女子オープン」で単独4位。しかも最終ラウンドのバックナインまで優勝争いを繰り広げた。これがどれほどすごいことか。無観客試合ではなかったら勝っていたのかもしれない…。タラレバを言い出したらキリがないが、何よりも日本選手のメジャー優勝の可能性を感じながら18ホールの撮影をさせてもらえたことに対してプロへの感謝の気持ちが大きかった。
「一時帰国ですか?」いやいや
翌日の火曜日に帰国の途へ。帰りも同じくロサンゼルスを経由して羽田空港へ。日本からの国際線はガラガラだったと前編で記したが、国内線はアメリカでも「Go Toトラベル」をやっているのか、と思うほど混雑していた。
相変わらずロサンゼルス空港でターミナル間のシャトルは動いておらず、20分以上歩いて国際線ターミナルに移動すると案の定、国際線ターミナルはガラガラだった。
これだけ人が少ない状態でも飛行機を運行してくれるおかげで、アメリカに来て、撮影ができた。航空会社への方々には頭の下がる思いがした。羽田行きの飛行機に搭乗すると、やはり空席ばかり。見える範囲には片手で数えられるくらいの人しかいなかった。
CAさんからは「一時帰国ですか?」と声をかけられた。「あっいや、ヒューストンで数日間仕事があって、これから日本に帰ります」と返した。アメリカ在住の日本人が一時帰国で使う。いまはたぶんそれくらいしか、国際線の利用者がいないのだろう。
結果発表にドキドキハラハラ
無事に羽田空港に到着。空港では唾液による抗原検査があった。その前に日本での滞在先や2週間の自主隔離期間中に過ごす場所などを入力するアンケートに答える必要があるのだが、アンケートはQRコードで読み取ってスマートフォンで対応する。まさかスマートフォンを持っていないと入国できないのか? と軽い疑問も湧いたが、とりあえず自分の情報を入力した。
その後の検査で、自分の番号のシールが貼られた検査キットをスタッフに手渡すと「陰性の方は番号でお呼びします」と言われた。1時間以上はかかるだろうと覚悟していた検査結果は、意外にも30分程度で出始めた。自分の番号は40番。なぜか一気に39番までがLEDボードに映し出され、陰性が伝えられていた。
「もう、本当に、そういうのやめて…」。自動車免許の合格発表を思い出す。ドキドキハラハラしながら数分間を過ごすとLEDボードに「40番」が示されて、晴れて帰国。スーツケースをピックアップして空港の到着口へ向かった。
会場にはドラマが詰まっていた
空港の駐車場に停めておいた自家用車で帰宅へ(公共交通機関は使えない)。これから2週間の自主隔離ということは大みそかまで。これが2020年の仕事納めかと、この1週間を振り返りながら車を走らせた。
メディアセンターでは「また韓国人選手が優勝した」という“声”が上がっていたが、日本でも黄金世代やミレニアム世代が台頭している。この先、「また日本人選手が優勝」なんてささやかれる日が来るのも近くなっているのかな、と誇らしさを感じながら。
コロナのこと、無観客試合のこと、そのほかのこと…。いろいろと考えさせられる1年を凝縮したような全米女子オープン。この状況は果たしていつまで続くのだろうか。ゴルフトーナメントに観客の声が戻ってくるのはいつになるのだろう。選手や関係者だけじゃなく、観ている人のすべてが興奮する、あの熱気はいつになったら戻ってくるのだろう。
プロカメラマンとして現場での撮影を続けていて、常々思っていることがある。どんなスポーツも、語り継がれるドラマを作り上げるのは選手、観客、審判、ボランティア、メディア…その会場にいるすべての人々なのだ。(カメラマン・中野義昌)