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「敷かれたレールを走ってきたわけじゃない」/畑岡奈紗 単独インタビュー

米女子ツアー5シーズン目となった畑岡奈紗の2021年は濃密だった。シーズン2勝を挙げ、自己最高の賞金ランキング3位でフィニッシュ。日本のエースとして確かな実力を示した一方、6月「全米女子オープン」で笹生優花とのプレーオフに惜敗。8月「東京五輪」でもメダルに届かなかった。

「『5年以内にメジャーで勝ちたい』という目標がひとつあった。(期間で言えば)それが去年まで。でもベテラン選手から言わせれば、『5年でメジャーを勝つなんて…』っていうのもあるかもしれない。プロ転向したときは5年以内にって言ってましたけど、そう簡単なことではない。いざこっち(米ツアー)でやって、改めて厳しさを感じた部分もあります」

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知ったメジャーの重み

2016年10月、プロ転向の記者会見で高らかに宣言した“5年以内のメジャー優勝”。そのビッグタイトルが持つ重みを本当の意味で理解したのは、18歳で海を渡り、ツアーに定着してからのことだ。

「(メジャーの重みは)変わりましたね、全然。ここ(米ツアー)で戦っているみんな、そこを目指している選手ばかり。全米女子オープンがどういうものなのかだったり、(自然と)日本にいるよりも意識するようになったと思う」

18年「KPMG全米女子プロ」ではプレーオフの末に敗れた。19年「AIG全英女子オープン」は同学年の渋野日向子が初メジャーで頂点に立った。そして、笹生との激闘。悔しさをかみしめつつ、いまはゴルフ人生のターゲットと冷静に向き合う。

「印象に残っている試合があって…」と言ったのは、2018年「ANAインスピレーション(現シェブロン選手権)」。当時31歳のパニーラ・リンドベリ(スウェーデン)が朴仁妃(韓国)との8ホール目までもつれたプレーオフを制し、ツアー初優勝をメジャーの大舞台で飾った。

「彼女はすでに10年以上キャリアがあって、それだけ苦労をして勝てた。もちろん、(人によっては)スッと勝てちゃうときもあるのかもしれないけど、そうやって経験を積んでいくことが大事なのかなって、パニーラの優勝を見て思ったんです。(それまでも)焦っていたわけじゃないけど、今まだ勝てていないことを焦りに変える必要はないのかなって」

葛藤と失意の東京五輪

同じ日本勢の笹生に敗れたことも「例えば相手が米国人だろうと、どの国の選手であろうと、あんまり違いはないのかな」と淡々と受け止める23歳の素直な感情が垣間見えたのが、9位で終えた「東京五輪」について振り返ったときのこと。プロ転向の場で5年以内のメジャー優勝とともに金メダル獲得を掲げた大目標だった。同じく日本代表の稲見萌寧が銀メダルをつかみ、日本中を沸かせた。

「地の利を生かして成績を残したい、最低でも表彰台に上がりたいというのがあった。(自分ができなかったことで)悔しさは、より増しましたよね。終わった後は1カ月くらい、なかなかやる気が出なかったです」と明かし、コロナ禍で1年延期となった期間に思いを巡らせる。

「(延期で)いろいろ考える時間が増えてしまって、逆にその間にチャレンジしてみても良かったのかなって思いますけど、(当時は)なにかを大きく変えようとは思わなかった。いくら練習で良くても、試合で成績を残せないと自信にはつながってこない。2020年は試合も少なくて、(なかなか実戦では試せない状況で)なにかを大きく変えて良い方に行けばいいですけど、それが間違った方に行っていた場合、崩れてしまうリスクがある。それよりもグリーン周りのショートゲームだったりにフォーカスした方が…と思った」

迷った末の選択は、コーチのゲーリー・ギルクリスト氏から助言されたポイントとも重なる。「ナサは飛距離を5yd伸ばすよりも、もっとグリーン周りの技術を磨いた方が1打でも2打でも少なく上がれるチャンスはあるよ」。そもそも、長く特定のコーチに師事してこなかった畑岡。20年に入ってからコンタクトを取るようになったギルクリスト氏の存在が、大きな変化を受け入れた証しともいえた。

「基本は自己流でやってきて、それをあまり変えたくないというのはあったけど、自分の(解決)能力だけでは(修正が)追いつかなくなってきた部分もあった。ショットもそうですし、特にグリーン周りのアプローチ。フロリダのバミューダ芝に悩まされていたところがあって。ラフからだったら(クラブフェースを)開いて打てるので良いんですけど、逆にシンプルなライから打てなくなってしまった。ゲーリーの拠点が(自分と同じ)フロリダだったことも(理由として)ありました」

“突き上げ”への危機感

高校を卒業してすぐに飛び込んだ最高峰の舞台。母国でツアーの中核を担うまでになった同じ“黄金世代”の選手たちへの意識を尋ねると、意外な反応が返ってきた。

「逆に同世代よりも、下(の世代)がどんどん来ているという危機感の方がありますね。同い年の選手が活躍している危機感よりも、今年も(古江)彩佳ちゃんが(米ツアーに)来ていますけど、そういう下から来る危機感の方が大きいです。米国に来る(自分より若い)選手を意識することは増えました」

2月14日時点の最新世界ランキングは9位。押しも押されもせぬトップクラスでありながら、現状に甘んじるつもりはない。挑戦することでキャリアを切り開いてきた自負がある。

「ここまで、敷かれたレールの上を走ってきたわけじゃない。(米ツアーで)5年間やってきて、いろいろ寄り道もしたなって感じはしますけど(笑)でも、前には進んでいるなって感じはします。一人だけじゃ、絶対にできないこと。母のサポートだったり、マネジメントのサポートだったり、いろんな意見を聞きながらやれるようにはなってきたのかな」

「圧倒的に勝ちたい」

1月にフロリダ州での3連戦で開幕した2022年シーズンは3週のオープンウィークを挟み、3月3日から始まる「HSBC女子世界チャンピオンズ」(シンガポール・セントーサGC)で再開。その4週後には今季メジャー初戦「シェブロン選手権」(カリフォルニア州ミッションヒルズCC)も控え、いよいよ戦いが本格化していく。

「米国で一番感触が良かったのは(2018年の)初優勝のとき。1年トータルで考えても、あのシーズンでした。この2年くらいは、やっぱり自分が思うような成績を残せていない。(メジャー以外では)勝ってるじゃんって言われますけど、スッキリした勝ち方っていうのはなかなかできていない。なんかもう、圧倒的に勝ちたいですね。1打2打とかじゃなく、大差をつけて勝ちたい。誰かの記憶に残るような…」

究極の理想を追い求め、道なき道をゆく。(編集部・亀山泰宏)

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