6年目の米国 変化への恐怖と克服の舞台裏を明かす/畑岡奈紗 2022年末インタビュー(1)
求めてやまない武器 オールラウンダーの葛藤/畑岡奈紗 2022年末インタビュー(2)
18歳でいきなり世界最高峰の米ツアーに飛び込んでから6年が経過した。次々と新たな世代が台頭する女子ゴルフ界にあって、畑岡奈紗が日本の先頭を走り続けて久しい。これまでにない大きな変化を取り入れながら4月「DIOインプラントLAオープン」で優勝も飾った一年を振り返り、悲願のメジャー制覇に向けたアプローチに迫る単独インタビュー。後編はさらなる進化への取り組みを語った。
自己最高の平均265yd超
9月にディフェンディングチャンピオンとして臨んだ「Danaオープン by マラソン」。7位に入ったこの大会が、今季最後のトップ10フィニッシュとなった。2年ぶりの日本ツアーだった「樋口久子 三菱電機レディス」が47位、翌週の日米共催「TOTOジャパンクラシック」は28位と母国でのプレーも不完全燃焼。黒宮幹仁コーチに帯同してもらう試合も挟みながら理想のスイングを追究したが、一筋縄ではいかなかった。
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「黒宮さんの中で段階を踏んで、(スイングの状態に)徐々にクラブを合わせていくというのがあった。途中、やりたいスイングとクラブとのマッチングもうまくいかなかったり、いいスイングをしたけど結果が伴わないということもあった。特に秋口のアジアシリーズに入ってから、そこはちょっと苦しかった」
目標の複数回優勝に届かなかった一方、今季の平均飛距離は自己最高となる265.24ydを記録した。「シーズンが始まった後に本格的に取り組んだ部分ではあったので、そこ(新たなスイングとギア)がマッチしてくれば、もっと効率よく飛ばせるんじゃないかなって思っています」と話すように、まだまだ伸びしろを感じてもいる。
一昨年くらいまで取り組んでいたものの、アプローチやショートゲームの感覚が変わってしまうため中止していた上半身のトレーニングを再開したのもシーズンが終わりに近づいてから。黒宮コーチが栖原(すはら)弘和トレーナーともコミュニケーションを重ね、「理想のスイングをするためにはプッシュする(押す)力も必要」との方針で一致した。従来の下半身、回転、バランス系のメニューに加え、現在は腕や広背筋といった部位の強化にも励む。
「技」と「体」 そして「心」
この12月には、日本ゴルフ協会(JGA)が宮崎で行った合宿に参加した。ナショナルチームとして新たにメンタルコーチを招いて本格的な講義を行うことも聞き、多忙なオフのスケジュールに組み込んだ。
「心技体とあって、『技』と『体』は結構やってきたかなと思うんですけど、心理的な部分って、意外とレッスンを受けたりすることがなかった。そういった方面からも、何か変われるきっかけがつかめたらなと思った」
メンタルコーチの前で、スタートするまでのルーティンを実践して助言をもらうなどゲームに即した形でヒントを探った。考え方ひとつでマインドが必要以上にネガティブに入ってしまいかねないことも指摘された。
「これまで私は『あっちにはミスしたくない』『これをやっちゃいけない』みたいな言い方をすることが多かった。それを『~したい』みたいに変えるだけでも、ちょっと違ってくる、と。同じことを考えていても、マイナス面を意識するか、(前向きに)目的を明確にするか。もちろん言葉ひとつで、そんなに簡単じゃないと思いますけど、第一段階としては(ありかもしれない)」
2人の世界1位を追いかけて
米ツアーで戦う前から憧れとしてイメージしていたのが、元世界ランキング1位の宮里藍さんだった。「やっぱり藍さんが目標」と変わらぬ思いを明かした上で「向こう(米国)でもっと有名になりたい」と笑うのは、異国の地で誰からも愛された大先輩への敬意ゆえ。宮里さんが積み重ねた米9勝、その先にある2桁優勝が、キャリアにおけるひとつのランドマークだ。
10月に韓国で開催された「BMW女子選手権」の大会中には、リディア・コー(ニュージーランド)と食事をする機会があった。同じフロリダ州レイクノナG&CCをホームコースにしており、普段から「困ったことがあれば何でも相談して」と気にかけてくれる姉のような存在。11月には5年半ものブランクを挟んで世界ランク1位に返り咲いた25歳について「一番のお手本」と話す。
刺激を受けるのは、なにも年上からとは限らない。今季ルーキー優勝を飾った古江彩佳、そして視線は国内ツアーの面々にも。「米国でやってるからとか、日本でやってるからとかは思わない。やっぱり、(稲見)萌寧ちゃんはうまいですよね。アイアンショットとか、ホントにすごい」。日本のエースとして確固たる地位を築いても、常に足りないものを探している。「あと2、3個のピースが埋まれば、パズルが完成しそうな感じというか、もっと勝っていけそうな感じはあるんです」
「突出しているものがないんですよね、私。何かが飛びぬけて良いわけじゃない。すごい“中途半端”だと思う。(各スタッツをレーダーチャートに例えて)もちろんバランスよく大きくできれば一番ですけど、やっぱり何か1個、『これ』っていうものがあれば、それを強みにゲームを組み立てられるのかなっていうのも、ちょっとあります。例えばパターが良ければ、ある程度ショットで安全な方を狙ってもパターで勝負できたり。ちょっとした自信の材料じゃないですけど『この部分は自信を持っていける』となれば、もうちょっと攻め方も変わってくるのかな、とか」
オールラウンダーならではの葛藤。もっと強くなりたいという欲求は尽きない。「それがなくなったら、もう、やめるときかもしれない。今ですか? ずっとありますね」。笑顔の中に勝負師のプライドがはっきりとにじんだ。(聞き手・構成/亀山泰宏)