「技術以上に大事なもの、それは考え方」 アメリカ挑戦・桂川有人の現在地(後編)
「米LPGAコーチにアプローチ習いました」 アメリカ挑戦・桂川有人の現在地(前編)
昨年はルーキーイヤーながら初優勝を遂げ、賞金ランキングも堂々の5位に入った桂川有人。今シーズンは目下アメリカ下部ツアーに挑戦中だが、予選落ちが続いていて、思うような成績を出せずにいる。今週の「クラブカー選手権」(ジョージア州・サバンナ)からいよいよアメリカ本土での戦いが始まったが、日本を飛び出て世界で戦う24歳の若者は今、何を思い、何にもがいているのか? その“現在地”を取材した。(聞き手・構成/服部謙二郎)
パットの悩みが深まっていた
桂川有人、一度取材をするとこの男のファンになる記者は多い。いつもゆったりとした口調で丁寧に自分の言葉を選んで話し、どんな質問をしても心の内を隠すことが全くない(ように思える)。ギラついた選手たちが集う男子プロゴルフ界の中で、どこか牧歌的な雰囲気を持ち、気づけばいつもその独特な“ワールド”に引き込まれてしまうのだった。かくいう私もそんな桂川ワールドにやられてしまった一人だ。
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最初に彼を取材したのは、日大ゴルフ部(静岡県三島市)に在籍していた大学4年のとき。同部のコーチを務めていた内藤雄士氏から、清水大成、木村太一とともに紹介を受けたのが桂川だった。同級生の清水や木村といったどこか華のある二人に比べ、桂川は一見地味な存在(失礼!)。ただ、内藤コーチが「彼のショット力はほんとすごいよ」と言っていたのを、そのわずか2年後に目の当たりにした。昨年は開幕戦の「シンガポールオープン」で堂々の2位に入り、「ISPS HANDA」でツアー初優勝。そして「全英オープン」では日本人最上位でフィニッシュし、あっという間にトップ選手の仲間入りを果たした。
それだけの活躍をすると、記者のあしらいもぞんざいになってくるもの。だが桂川のメディアへの対応は全く変わらず、いつ会ってもその場に足を止め、じっとこちらの目を見てしゃべってくれる。今回「ニュージーランドオープン」の会場で久しぶりに会った時も、「お久しぶりです!」と向こうからわざわざ歩み寄ってきてくれた。
「いまミクムさん(堀川未来夢。大学の先輩)にパッティングを教わったんですが、なんかきっかけがつかめそうなんですよ」と目をキラキラと輝かせている。ちょっと待って桂川くん、いきなりナニゴト?(笑)。そもそもパットの調子悪かったっけ?
「ミクムさんが勝俣さん(勝俣陵。こちらも大学の先輩)に教えていたのを一緒に聞いていて。バックスイングの話なんですが、ちょっといいかもしれないんですよ。僕も(バックスイングを)上げ過ぎてインパクトが緩むんですよね。インパクトをしっかりしたいと思ってやってきたんですけど、距離感が合わなくなっちゃって。その原因がバックスイングの上げ過ぎで、それでバチンといっちゃっていたのかな。今までストロークは気にしていなくて、リズムとか振り幅が(不調の)原因と考えていたんですよね……」と、もはや私に話しかけているのか独り言なのか分からなくなってきたが、とにかく彼の会話は止まらない(止められない)。
聞けば、「去年の後半戦からパッティングが全然ダメでした」(桂川)と、いいショットをしてもパターが入らないという状況が未だ改善していない様子。今年はさらにハワイ→パナマ→コロンビア→ニュージーランドと各地を転戦し、「見た目と実際のグリーンの速さの感じ方がズレて読みづらい」と、グリーン上の悩みは深まっているようだ。
「芝の色や長さ、種類で、速いグリーンか遅いグリーンかの見え方の基準があるんですが、それがズレる。ここ(ニュージーランド)とコロンビアは似ていて、速そうに見えないのに実際打ってみると速い。そうなると次に打つときに怖くて打てなくなって…。一方でパナマはフィリピンやタイなどの東南アジアっぽいバミューダで、芝のクセがヤバかったです。それでタッチの強弱がワケ分からなくなったまま次の国に移動して…いろんな国に行くと余計にそう感じますよね」
アメリカのトップコーチにアプローチを習う
元々、桂川有人という選手は、パットよりもアプローチが苦手だったと記憶している。ただし、今回のニュージーランドオープンでは予選落ちはしたものの、課題だったアプローチは良くなっていたと言う。「グリーン周りに関しては、新しく習ったことが体に染み込んできた感じです。ちょっとずつ自信もついてきました」とうれしそうに話す。習った?いったい誰に?
「クリス・メイソンさんという主にLPGAの選手を教えているアメリカのコーチに、基本中の基本を教えてもらいました。実は今までゴルフを始めてからアプローチを教わったことがなく、見よう見まねでここまできちゃったんです」と照れくさそうに話す。
その「Chirs Mayson」という名を検索してみると、過去にツェン・ヤニやリディア・コーらを教えてきたまさにトップコーチ。桂川はアメリカ滞在時にクリスコーチの本拠地サンディエゴまで赴き、アプローチをじっくり習ってきたという。
「習ったのは、転がす、中ぐらい、上げるの3パターン。それぞれの構え方と振り幅のイメージを教わって、あとは状況判断ですね。今まで僕にはそういう軸というか基準がなくて、感覚オンリーでやってきました。それでうまくいけばいいのですが、うまくもいってなかったですしね。(アプローチが)おかしくなったときに戻る場所もなかった。木で言ったら幹がない状態。今まで枝しかなく、枝でなんとかやっていたから、正直アレンジしようがなかったんです。ショットに関してはそうした“戻る場所”があるんですけどね…」
このままいくと、桂川くん、永遠に話しそうなので前編はひとまずこの辺でおひらきに。いやぁ、いつの間にか“桂川ワールド”に引き込まれてしまった…。(後編に続く)