出来過ぎたドラマ ジョン・ラームを導いたスライスライン
2021年 全米オープン
期間:06/17〜06/20 場所:トーリーパインズGC(カリフォルニア州)
ジョン・ラームが「全米オープン」前にパターを変更した理由
ホールへ向かって左から右へ切れる5.4mのパットの行方を見詰めていたジョン・ラーム(スペイン)は、使用するオデッセイ ロッシーSパターを掲げると、ボールが吸い込まれるや否やガッツポーズで歓喜を爆発させた。あれからもう何日も経つのに、我々はラームが「全米オープン」優勝を決めたパットを何度見てきたことか。
世界ナンバーワンに返り咲いたラームが、「全米オープン」直前の大会でパターを変更したというのは、にわかに信じ難いことである。また、ミッドマレットモデルに落ち着いた彼の選択は、それまで何カ月にも渡って使用していたパターが大型で後方重心の高慣性モーメントモデルであっただけに、驚きでもあった。
<< 下に続く >>
では、どういう経緯があったのか。果たして、“ランボー”(ラームの愛称)はどのようにして、2008年大会を制したタイガー・ウッズのようになり、パッティングにフラストレーションをためていた約1カ月前のゴルファーではなくなったのだろう?
「メモリアルトーナメント」の前週、ラームはキャロウェイでツアーオペレーションの主任を務めるティム・リードとオデッセイのツアーレップ、ジョー・トゥーロンを伴い、パターを試打するためカリフォルニア州カールスバッドにあるエリーキャロウェイパフォーマンスセンターを訪れていた。そこで、オデッセイ ロッシーSミッドマレットパターに最も魅せられた。「全米プロゴルフ選手権」で使用した2ボールテンに装着されていたマイクロヒンジスターインサートには満足していたため、トゥーロンと同社はロッシーにマイクロヒンジを装着したパターを組み上げた。
SAMパットラブとクインティック(どちらもパッティング分析システム)による査定でも、ラームがキャロウェイの契約選手となった1月以降使用していた高慣性モーメント、後方重心の2ボールテンよりも、ロッシーの方が良いパフォーマンスを発揮していることは明らかだった。そして、「メモリアルトーナメント」での爆発的な3ラウンドや、「全米オープン」で決めたクラッチパットで見られたように、パッティングパフォーマンスは、確かに向上していた。
ラームのロッシーSについて内情を聞こくため、GolfWRXはオデッセイのツアーレップ、ジョー・トゥーロン(JT)と膝を突き合わせた。
GolfWRX: ラームがキャロウェイと契約した際、最終的に自分のバッグに入れることになるオデッセイ2ボールテンに良く似た形状のパターを使用していました。その選択は、直観的にも理に適っていたと思いますが、「メモリアル-」で別のパターに変えました。なぜでしょう?
JT: 1月に彼がパッティングスタジオに来た際、パッティングの調子はそこまで良くありませんでした。何かしらの理由で不調に陥ることを心配していました。確か、我々は彼のために20本のパターを組み上げたはずですが、その間、Sネックの2ボールテンが選ばれることになるだろうと考えていました。それまで使用していたパターと似ていましたからね。
とはいえ、そのプロセスを通じて、選手の意見や言葉に耳を傾ける必要はあります。彼はセットアップやパターの据わり方に違和感を感じ、そわそわしていました。
大学時代は2ボールを使っていました。だから、2ボールテンの据わり方に惹き付けられたのです。それがしっくり来たようで、パスも気に入りました。スクエアに構えることができ、フェースの中心でパットが打てるようになりました。
我々がパターに対して最後に施した調整は、インサートをホワイトホットに差し替えることでした。ラームはフィーリングを大事にする選手であり、インパクトでホワイトホットの打感が良いと言っていました。
それゆえ、「ファーマーズインシュランスオープン」から「全米プロゴルフ選手権」にかけて、あのパターを使い続けたのです。
GolfWRX:そして、「全米プロゴルフ選手権」でちょっとした改良を施しましたね?
JT: 我々は選手たちのスタッツを注視しています。選手たち、キャディたち、そして代理人たちと話をします。常にパター(やその他全てのクラブ)のフィーリングがどのような感じなのかを把握したいと思っています。ラームのパッティングは、年頭から時間を経てもほとんど変わりませんでした。2~4mのパットが入り始めると期待しながらそうはならなかったので、フラストレーションを募らせました。(オデッセイ2ボールテンを使っている期間)パッティングが絶好調という週がありませんでした。1週間のパッティングのストロークゲインドは、いつも0ストローク前後でした。したがって、彼のスタッツを見て、パッティングが比較的好調になれば、それ以外では素晴らしいプレーをしていると考えました。
我々はもっとスタッツを掘り下げ、ラームがコースで何を感じ、キャディは何を目にしているのかを把握したかったので、「全米プロゴルフ選手権」前にミーティングをしました。
そこでスピード(タッチ)が合っていないということを聞いたので、2ボールテンのインサートを(ホワイトホットからマイクロヒンジスターへ)変更しました。ただ、「全米プロゴルフ選手権」の週だったので、パター全体を変えたくはありませんでした。
実際に目にしたことについて、我々は心を躍らせましたが、その大会の土曜のラウンド後、彼はこのパターを使うのはこれが最後になるかもしれないと言ったのです。
GolfWRX: なんと、また振り出しに戻ったのですね。そこからは、どのような方向へ進んだのでしょうか?
JT: ロッシーは、私が1月に彼のために用意したパターの一つでしたし、パターを見る目や、最初の感想を聞いた時から、あのパターは全体的にポジティブな感じがするのが分かりました。それに、常にあのパターを見返していましたので、私は他の数本のパターとともに、あのパターを組み上げることにしました。
ラームがパターに線が入っているのが好きではない、線にとらわれない人間であることを知っていますし、インサートを気に入っていたことも知っていたので、全てのピースをひとまとめにする感じでパターを組みました。彼はフェースを離れるスピード、打感、そして転がりを気に入っていたので、このインサートを使用することになるのは承知していました。そして、フェースのローテーションが感じられるSネックに戻したいとも思いました。
2ボールテンは、重心がパターの後方にあります。時間とともに、我々はフェースローテーションを感じたいというラームにとって、これが機能していないことを察知し始めました。そして、時間が経つにつれ、それがストロークをボールに対してしっくりこない感じに変えてしまっていたのです。ですので、我々は重心が前寄りのパターを彼にあつらえようと思いました。
ラームはパターを確認し、正しい1本を選ぶため、(「チャールズシュワブチャレンジ」の週の)木曜と金曜にテストセンターに来ましたが、木曜にロッシーに一目惚れしたので、我々はクインティックとパットラブを使用し、数値が良いかどうか確認しました。
その時点では、打ち出し角を向上させるため、若干ロフトを調整する必要がありましたが、それ以外はOKでした。あのパターを手にしてどれくらい自信を感じ、どれくらい使い心地良さそうにしているかは、かなり驚くべきものでした。グリーン上で、全くの別人になりました。
GolfWRX: ということは、明らかに異なるパターで、より良いパフォーマンスになったというわけですが、これがラームにとってより良かったのは、なぜでしょう? そしてどのように機能したのでしょうか?
JT: 基本的に、彼は幾分フェースを感じることができるようになりました。これにより、フェースアングルに対してより同調できるようになり、ストローク中のローテーションの仕方を感じられるようになりました。そして再び、より“自然な”パターを感じることができるようになったのです。
<ジョン・ラーム使用パターの仕様>
パター: オデッセイ ホワイトホット OG ロッシーS
インサート: マイクロヒンジ スター
シャフト: 段付きスチール
長さ: 37インチ
ロフト: 2.5度
ライ角: 68度
重さ: 544グラム
(協力/GolfWRX、PGATOUR.com)