2026年 アーノルド・パーマー招待byマスターカード

ツアー使用率ナンバーワンの舞台裏 ボーケイウェッジ“キーマン”の一日に密着

2026年 ザ・アメリカンエキスプレス 事前 SM11
ツアー使用率ナンバーワンのボーケイウェッジ。それを支える“職人”にスポットを当てる

◇米国男子◇アーノルド・パーマー招待 byマスターカード◇ベイヒルクラブ&ロッジ(フロリダ州)◇7466yd(パー72)

ボーケイウェッジのツアーディレクター、アーロン・ディルの仕事はトーナメント会場のゲートを通る前から始まる。空気中の湿度、朝露、地面の感触、芝生の種類、大会運営チームが決めたラフの長さや難度の高さ…。コンディションをチェックしながら、思考をフル回転させている。

2026年 アーノルド・パーマー招待byマスターカード 事前 アーロン・ディル
ボーケイのツアーディレクターはとにかく忙しい(PGA TOUR)

最初に向かうのは、タイトリストの最新鋭ツアートラック。彼は転戦先で“オフィス”を構える唯一のツアーレップである。トラック前方にある8フィート(約2.43m)四方のスペースが彼にとって司令室。作業台、万力、ロフト及びライ測定器、そして何より重要なサンドベルトグラインダーがそろい、ここで存分に腕を振るうのだ。

ディルは、ボブ・ボーケイの右腕として知られる。長い時間をともに過ごし、職人技を研究しながら一流のクラフトマンとなるための全てを習得することで、ボーケイウェッジの生みの親から同社のツアーレップに抜擢された。

「彼は多くの時間を私に割いてくれました。チームで長い時間を一緒に過ごし、たくさんのことを学びました。研磨の仕方、集中するべきポイント、ミスをどう修正するか…。初心者って、どうしても失敗を繰り返すものですからね。当時の私は23歳。右も左も分かりませんでしたが、学ぶことに貪欲だったのは確かです。ボブは常に『フィッティングやクラブの組み上げ方を教えることはできる。ただ、頑張る気持ちを教えることはできない』と言っていましたよ」

20年近いツアートラックでの転戦の日々を通じ、ディルはツアーでプレーする選手やキャディ、さらにはエージェントなどの帯同スタッフとおおむね良好な関係を築いてきた。各選手のニーズや好みは自らのノートに書きとめ(そのほぼ全てを暗記している)、その上でタイトリストのデータベースで管理している。

リクエストされたウェッジを丁寧に組み上げ、トラックに届けられるクラブのロフトとライ角を細かくチェックした後には練習グリーンへ向かう。各地を巡るツアーにおいて、初めて目にする芝のコンディションに対してグラインド変更をお願いしてくる選手もいるからだ。

「PGAツアーでは、芝のコンディションや天候のパターンが多様な西海岸で1年が始まります。選手たちは自分のプレーの傾向を確かめながら状態を上げ、ギアの調整も進めてコースコンディションに合わせようとします。それがここ(ベイヒル)に来ると、芝の種類が全く違う。芝目がよりアグレッシブなバミューダで、砂質も異なるため、選手たちもギアの変更に触手が伸びるのです」

PGAツアーは最高の選手だけがたどり着ける舞台。それは使われるクラブについても同様である。ディルは練習エリアを回りながら、各選手のバッグを丹念にチェックし、全てのウェッジがその使い手の基準を満たしているか確認する。何か気になる点があれば、交換を視野に入れ、選手やキャディに伝えるためのリマインドとしてノートにメモする。こうした積み重ねが自らの仕事に役立つだけでなく、最高峰のツアープレーヤーたちからのフィードバックとして、次世代のボーケイウェッジにも引き継がれていく。「私たちには(PGAツアープロという)世界最高の研究開発部門がついているのです」

2026年 アーノルド・パーマー招待byマスターカード 事前 アーロン・ディル イム・ソンジェ
選手との入念なコミュニケーションが欠かせない(PGA TOUR)

時には足を止め、選手とメカニックについて話し込み、グリーン周りやグリーンを狙うショットでどういう感覚を大事にしているか理解するように努める。まさに職人の腕の見せどころである。

PGAツアー1勝のライアン・ジェラルドはディルについて、「こっちが言葉を発する前から、僕の考えていることが分かっている。ボールを見る目と同じくらい、良い耳を持っているね」と評する。ジェラルドとやり取りをするディルの手には、緑色のマジックペンが握られていた。選手の意見を取り入れて最高のコンタクトを実現するべく、研磨機で削り落とす箇所をペンでマークしていたのだ。さらにはTからM、最終的にはA+まで、複数のグラインドでテストを重ねることを惜しまず、ジェラルドのショートゲーム向上に寄与している。

ジェラルドだけではない。ルドビグ・オーベリ(スウェーデン)、ジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス、キャメロン・ヤング、イム・ソンジェ(韓国)…。会話をするたび、彼のノートには各選手により良いオプションを提供するための参考資料が増えていく。その中でも注文を受ければトラックに向かい、ウェッジを完璧な状態に仕上げ、所有する選手に届ける。

このサイクルは、月曜の朝の日の出から、水曜にチームが荷造りを終え、トラックが次なるPGAツアーの転戦先に向けて出発する準備が整う時まで続く。カリフォルニア州オーシャンサイドへと戻り、次のシリーズのクラブ開発チームに現場で知り得た情報を伝えることも忘れない。

「私たちはここ10年でかなり忙しくなりました。クラブを選手に合わせるのではなく、選手が自分に合ったクラブを見つける時代になったと思います」。ツアーで使用率ナンバーワンを誇るボーケイウェッジのキーマンとして、ディルとチームの研さんは続く。

(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)

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