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後世に残したいゴルフ記録

95年ぶり快挙で再注目された赤星六郎とは/残したいゴルフ記録

国内男子ゴルフのツアー制度が始まった1973年より前の記録は、公式にほとんど残されていません。また、73年以降もツアー史に埋もれている輝かしい記録が数多く存在します。本連載では、ゴルフジャーナリストの武藤一彦氏が取材メモや文献をもとに男子ツアーの前史や初期にスポットを当て、後世に残したい記録として紹介します。

初代「日本オープン」覇者

20代の若手プレーヤーが大活躍した2022年の国内男子ツアー。中でも「日本オープン」を21歳で制した蝉川泰果(せみかわ・たいが)は、1927年の赤星六郎以来95年ぶりの日本OPアマチュア優勝という歴史的快挙を遂げた。蝉川はその2週間後にプロ宣言をし、2023年は米ツアー「ソニーオープンinハワイ」から始動。国内外ツアーでの活躍が注目される中で、今回はその先鞭をつけた歴史上のトップアマ、赤星にフォーカスする。

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第1回「日本オープン」は1927年5月28、29日の2日間にわたり、神奈川・程ヶ谷カントリー倶楽部(パー70)で開催。アマ12人、プロ5人の17人が出場し、1日36ホール、計72ホールのストロークプレーで争われた。29歳の赤星は初日から首位に立ち、第2ラウンドを終えて2位に6打差をつける絶好のスタート。最終日も「79」「78」とベストスコアを重ね、通算29オーバー「309」ストロークは2位のプロ・浅見緑蔵に10打差をつける圧勝。栄えある初代チャンピオンとなった。

米国のアマ競技で快挙

この時代はアマ主導により、ようやく日本にゴルフが根付いたばかり。会員を募り、コースを造り、プロ育成の教育・指導もアマが行った。競技も1907年から「日本アマチュア選手権」が行われていた一方で、プロの試合は第1回「日本オープン」前年の1926年に「日本プロ選手権」と「関西オープン」が初めて開催された。

赤星は1898年、元薩摩藩士の父・弥之助と母・シズの六男として東京で生まれる。米国で事業に成功した叔父を頼り、ニュージャージー州の高校を経て19歳でプリンストン大に留学。地元のメンバーコースに所属し、大学ではゴルフ部に入りめきめきと腕を上げた。ハイライトは当時26歳だった1924年。300人が出場する全米規模のアマトーナメント「パインハースト・スプリング・ミーティング」に出場して予選を突破すると、マッチプレー本選では強豪を次々と破り、決勝戦で前年優勝者を4&3(3ホールを残して4アップ)で下す大殊勲。快挙は外電で日本に知らされ、日本のゴルフ界は驚きと喜びに包まれた。

翌年、赤星は27歳で大学を卒業して帰国。初のメンバーコースである東京ゴルフ倶楽部の会員になり、28歳から倶楽部選手権で2連勝を飾る。1926年の「日本アマ」に出場すると、最終日は兄・四郎と並んで首位を分けた。プレーオフは後日、36ホールストロークプレーで争われることになったが、赤星はプレーオフ当日に体調を崩して棄権し、四郎がタイトルを獲得している。実現していれば史上初の兄弟プレーオフだった。

プレー以外にも数々の功績

赤星は設計家としても名を残した。1929年に千葉・我孫子ゴルフ倶楽部、翌年に神奈川・相模カンツリー倶楽部を相次いで設計。コース設計は、静岡・川奈ホテルゴルフコース富士コースの図面設計などを含めて10数コースに上る。英国の自然を生かしたリンクスと、バンカーやグリーン形状から戦略性を重視する米国型を独自に取り入れ、我孫子や相模は今も高い評価を得ている。

また、1935年に米国で行われた日米プロの対抗戦ではコーチに就任し、アマの赤星が日本代表チームを指導した。「打倒アメリカ」を掲げ、メンバーには陳清水、中村兼吉、宮本留吉、戸田藤一郎、浅見緑蔵、安田幸吉の6人を選出。同年5月から8月中旬までの4カ月間、全米各地を転戦して地区の代表と42試合を戦い、日本の25勝13敗4分けという好成績を収めた。

しかし、1939年に勃発した第2次世界大戦が赤星の運命を大きく狂わせる。ゴルフを断念せざるを得ない状況となり、農業に専念。気晴らしの川釣りを趣味としたが、1944年3月、釣り針の傷による破傷風が原因で急逝。46歳でその生涯を閉じた。

蝉川と赤星。95年間の時を超えて、2人しかいないアマチュアでの「日本オープン」覇者に思いを巡らせた今、筆者の蝉川に寄せる期待はさらに高まっている。(武藤一彦)

武藤一彦(むとう・かずひこ)
1939年、東京都生まれ。ゴルフジャーナリスト。64年に報知新聞社に入社。日本ゴルフ協会広報委員会参与、日本プロゴルフ協会理事を経て、現在は日本エイジシュート・チャレンジ協会理事、夏泊ゴルフリンクス理事長を務める。ゴルフ評論家として活躍中。近著に「驚異のエージシューター田中菊雄の世界」(報知新聞社刊)など。

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