タイトリストのツアーバンが福岡でリニューアル 全長が伸びた「たかが1m、されどの1m」
◇国内男子◇Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント 事前(25日)◇芥屋GC(福岡)◇7293yd(パー72)
真夏の青空とまぶしい緑に包まれた芥屋GCの駐車場に、差し色の赤が目立つ巨大トラックが鎮座していた。タイトリストが今週から国内男子ツアーに投入した、ピカピカの新型ツアーバンだ。
内部をのぞくと、今までのレイアウトとは別世界だった。これまでは車内が2ルームに仕切られ、手前にはボールやグローブなどの収納・配布スペースが置かれていたが、すべて取り払われ、ひとつの巨大な作業スペースに生まれ変わっていた。車内では、名物ツアーレップの「シギーさん」こと岩國誠之氏らが忙しそうに作業を進めていた。
聞けば、男子ツアーにおいて同社製クラブの使用率は右肩上がり。ドライバーは毎週50人以上が使用して独走の1位、アイアンも試合によって1位と2位を激しく争うという。「これだけ多くの選手がクラブサポートを求めているなかで、サービスが追いつかなくなっては本末転倒。新型バンは、完全にクラブサポートの強化に特化させました。PGAツアーでは、ボールやグローブはロッカールームで配布されるため、ツアーバンは純粋なクラブ調整工房として機能しています。今回の新しいバンは、そのアメリカのスタイルに限りなく近いです」とツアーチームのリーダー・真野義英氏は語った。
車内に入ると、米本社の徹底した効率化思想が随所に息づいていることに気づく。最たるものが、「ビルダーの歩数をゼロにする」設計だ。バンの中心には、作業効率を極限まで高めるための「アイランド(中央作業台)」が鎮座。驚くべきは、このアイランドを挟んで左右対称に、シャフトカッター、フェルール(ソケット)削り、グリップステーションといった工作機械が2台ずつ配置されている「ダブルステーション体制」が敷かれている点だ。
「以前のバンはスペースが狭く、クラフトマンが1人入るといっぱいいっぱい。お互いの動線がぶつかって作業が渋滞することもありました。今は3人のビルダーが同時にストレスなく、超高速でクラブを組み上げられるんです」。ちなみに、ここで調整された選手のクラブスペックは、その場でツアーレップの手によってすぐに世界共通のクラウドアプリ「Tour App(ツアーアップ)」に入力される。選手が海外の試合に出る際も、現地のツアーバンで全く同じスペックのクラブを瞬時に再現できるバックアップ体制が整っている。
この作業スペースを確保するために、バンの全長を従来より1m長くした。「横幅は大きくできないので、スペースを広げるには長さを伸ばすしかない。積載量が増えるので、より多くの重機や部材を載せられます。本来、全長9mがレギュレーションだったのですが、関係各所と交渉を重ねて10mにしてもらいました」と真野氏。全ては選手のサポートを強化するために。たかが1m、されど彼らにとっては、約2平方mのゆとりを生み出した。
もうひとつ、今回のリニューアルの目玉が、 12時間フル稼働するソーラー&蓄電池駆動だ。これまでのバンは、エアコンや工作機械を動かすために、排気ガスをバンの下部から排出しながら、発電機を回し続けるのが当たり前だった。 しかし、この新型バンは屋根に敷き詰められたソーラーパネルと大容量蓄電池を搭載。エンジンを一切かけない状態でも、すべての重機やエアコンを最大12時間フル稼働させることができるという。 実際、稼働中の車内は耳を澄ましても「シーン」と静まり返っていた。
そして、この男子ツアーへの新型バン導入は、さらなる波及効果がある。13年間にわたり稼働していた男子用ツアーバンが、来週からそのまま女子ツアー(ゴルフ5レディス)の会場へ移行する。
これまでの女子のツアーバンは、もともと「1人用」のコンパクト設計。女子選手からのサポート需要が年々増えるにつれ、現在は3人のスタッフがぎゅうぎゅうになって作業せざるを得なかった。 「来週からは作業スペースが約2倍になります。女子のクラブサポート環境は、これで劇的に変わりますよ」と、スタッフの鼻息も荒い。
「すべては選手にどんなサービスが提供できるかという、逆算から始まっています。ここはブランドの象徴的な場所です」。“選手ファースト”を貫くタイトリストの哲学が、この全長10mの巨大な車体に凝縮されていた。(福岡県糸島市/服部謙二郎)