タイガー・ウッズ 復活の軌跡
【WORLD】最終日首位スタートは優勝できない?
Golf World(2012年5月14日号) texted by David Barrett
3日目を終えた時点で首位に立った場合、それまで54ホールでプレーしたのと、残り18ホールをプレーする時とでは、自然と精神的な部分で大きな差が生じてしまうもの。何故なら、脳裏にゴールラインが浮かび上がり、自分が首位に立っていると過剰に考えてしまうからだ。落とし穴もたくさんあるし、先走らずとも自分にとって勝利の意味を考えてしまうのだ。それこそが精神を混乱させる要因となってしまう。
「ゴルフは、その瞬間のゲームであって、もし自分が優勝したらどうなるか、更に先を考えて優勝賞金を何に使うか、もしくは、もしリードを保てずに優勝を逃してしまったらどうなるかと考えた瞬間、それはすでに瞬間から逸脱してしまっていることになる」とは、CBS解説者のピーター・コスティスの意見だ。
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スポーツ心理学者であるジオ・ヴァリアンテ博士は、3日目を終えた時点で首位となっていた直近3大会で2勝を挙げたジャスティン・ローズをサポートした人物。ローズはそれまで5大会で同じシチュエーションに身を置き1勝も挙げられていなかった。ヴァリアンテ博士は、もしクライアントが先々のことを考え始めた場合、「当初の目的である『次のショットでどうするか?』という質問に立ち返るよう求めています。ただ1打についてだけ話をしているのではなく、ゴルフとは結局1打1打の積み重ねだからです」と指導するようにしているという。
最終日を首位でスタートする選手にとっては、心の動揺こそ最大の敵。そして何よりも、周りの選手の結果を気にすることで集中力が乱れていく。ボブ・ロテラ博士は、クライアントである選手達に、リーダーボードを見ないよう指導しているという。
メンタルゲームについて8冊の著作を出版しているロテラ博士は、「時として『選手達はそこまでしてリーダーボードを見ないと不安になるものなのか?』と質問されることもありますが、そうではありません。選手達は周りの選手がどうであろうと、自分なら逆転できる、対応できるはずだと過信している節があります。私が思うに、安定したプレーをするには、自分のプレーを心掛けることですね。たいていの場合、リーダーボードを見た選手は過剰に考え、そこに反応し始める傾向があります。それがプレーに顕著に影響を与えるんです。自分のゲームプランというものは、自分の技術レベルをベースとして考えるものです。そのプランに沿ってプレーすることこそが、できるだけロースコアに抑える方法なんです。例えば、3打差をつけているから、もしくは1打差をつけられているから、といってそのプランを変えられるんでしょうか?」と語っている。
ヴァリアンテ博士もこの点に同意し、「新人選手ならば、たいてい13番ホールに進むまではリーダーボードを見ないよう指示されるはずです。彼らにとって何1つメリットはありませんからね。ベテランともなれば、リーダーボードを見ても混乱しない方法をわかっていますから」と主張。とはいえ、ヴァリアンテ博士は、選手達に終盤にリーダーボードを見て、自分のポジションを把握することも重要としている。そうすることで、その後リスクを犯しながらも大きなリターンを得るようなコース戦略を練ることが必要とされるケースもあるからだ。
自分が首位に立ち、リードを守ろうとする考えも危険だ。そうすることで、3日目までのプレーを捨てて守りに入ってしまうからだ。コスティス曰く、これまで最終日を首位で迎えた選手の中で、「リードを広げる」という考えではなく、「負けない方法」を考えている選手を数多く観察してきたというが、それは完全にネガティブな思考だという。カイル・スタンリーがそれを証明しており、フェニックスでの最終日、彼は”何かをしない為”にではなく、”何かを起こす為”にプレーし、逆転優勝を果たした。