狭くなったミスの“幅” 松山英樹の挑戦は2021年へ
2020年 マスターズ
期間:11/12〜11/15 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
「マスターズ」のアプリは“年間大賞”の呼び声も
2020/11/26 10:01
「マスターズ」のアプリは素晴らしかった。出場選手の全ショットが、オンデマンドで、しかもTV中継のリプレイ映像とほぼ同じくらいの素早さで視聴できるというシロモノで、お気に入りの選手を登録しておけば、いちいちタップする必要すらない。今年のマスターズ中継の目玉とされたドローン映像もふんだんに取り入れられており、珠玉だった。
アメリカでは、アプリ・オブ・ザ・イヤーの呼び声も高いらしい。いまでも、すべての機能が確認できるので、興味ある方はご覧あれ!松山英樹選手の全280ストロークを確認したければそれも可能、タイガー・ウッズが最終日の12番ホールで大たたきしたシーンも見ることができる。
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それにしても、ひと昔前のマスターズを考えると隔世の感あり、だ。私がアメリカに住んでいた頃(1994~2000年)、マスターズ中継は6番ホール以降、最終組を中心としたカバレッジだった。伝統と歴史にこだわるオーガスタナショナルGCが許可しなかったのだ。だからスタートの5ホールは、私たち一般の視聴者にとってはとてもミステリアスだった。
それが2002年に全ホール中継が解禁され、06年には、他のメジャー大会並みに、趣向を凝らした多種多様の映像が楽しめるようになった。と思ったら、コロナ禍の今年は一気にデジタルトランスフォーメーションの最先端に躍り出てしまった。
オーガスタは、たとえば人種&性別にもとづく差別においても、この数年で劇的に変化した。共同創設者で初代会長のクリフォード・ロバーツ氏はかつて「ゴルファーは白人、キャディは黒人。私が生きている限り、この方針は変えない」と公言。1990年にメンバーに黒人が一人もいないことが社会問題になった際は、プライベートのクラブの会則に外野から口出しされるゆえんはないとはねつけ、2003年に女性の人権団体から女性会員がいないことを糾弾されて社会問題になった際も同様のコメントを発した。
それがいまや、アーノルド・パーマーの逝去で空枠となっていた名誉スターター(2021年4月開催大会)に、マスターズ史上初の黒人選手となったリー・エルダーを選び、しかも同氏の名を冠した奨学基金も設立した。アマチュアの女子大会(決勝ラウンド)も開催し、女性会員も現在、少なくとも2人はいるらしい。
時代の空気とニーズに合わせた柔軟な対応は、もしかしたらオーガスタの新たな日常なのかもしれない。(小林至・桜美林大学教授)
- 小林至(こばやし・いたる)
- 1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。