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小林至博士のゴルフ余聞

こうなったらもう、楽しむしかない

2021/07/27 17:30


東京オリンピックの開会式を横目に本稿を記している。様々な批判のなかでの開催であることはご承知の通り。「コロナ禍の東京で、なぜ人々に一層の辛抱を強いてまで、開催しようとするのか」、「そもそも、なぜ、IOC(国際オリンピック委員会)、ぶらさがっている競技団体、そして取引業者のために多額の血税が投入されるのか」

これに対する合理的な回答は、主催者であるIOCからも多額の税金を投じた日本政府および東京都からもないが、あるはずがない。なぜなら、五輪はコロナ禍であるかどうかに関わらず、「感動を与え、富を失う」イベントであり、そのことはスポーツビジネスの研究者ならば誰でも知っていることである。

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5月5日付の米紙ワシントンポストが「ぼったくり男爵またの名をIOC会長トーマス・バッハと呼ばれる男とその取り巻きは、開催都市を食い物にする悪癖がある」と痛烈に批判していたが、まあその通りである。

なぜそんな“タチの悪い集団”に引っ掛かったんだ、と言う向きもあろうが、日本の場合はいたしかたない。日本は主要メディアがすべてオリンピックのスポンサーであり、許認可権をもつ政府やCM出稿などで世話になっている五輪スポンサー企業への気兼ねから、長きにわたり感動を与える側面からしか論じてこなかった。

要するに、我々はそんなオリンピック・ファミリーにコロッとだまされたということだが、時すでに遅し。ではどうするかって? こうなったらもう、楽しむしかない。一瞬の夏のために人生を懸けてきたアスリートの姿には、間違いなく魂を揺さぶられるはずだ。路上飲みをしている場合ではない。

ゴルフはどうなるだろうか。大手ブックメーカー「Bet365」(編注:27日現在に更新)によれば、男子はコリン・モリカワが一番人気で8倍、ザンダー・シャウフェレが10倍、ジャスティン・トーマスが12倍で続く。女子はネリー・コルダが8倍で、ともに韓国のコ・ジンヨンが10倍、朴仁妃が11倍で続く。日本人選手は男子が松山英樹13倍、星野陸也101倍、女子は畑岡奈紗19倍、稲見萌寧51倍だが、私は、日本人選手は過小評価されているとにらんでいる。

なぜ霞ヶ関CCが会場になったのかについて、今も疑問を呈する声は多い。完全なプライベート・クラブだから、大会後にオリンピック開催コースとして一般に開放されることはない。絵的に取り立てて美しいわけではない。開催が決定した時点では女性会員を認めていなかったことは、ただでさえ諸外国から男女平等が遅れていると思われている我が国としてはむしろ隠したいところである。

そんな霞ヶ関CCを会場に選んだ合理的な説明はひとつしか考えられない。日本人に地の利が働くから。まず、松林にセパレートされ、アリソンバンカーに守られたグリーンというレイアウトは日本独特である。次に、日本独特の酷暑がとりわけ厳しい地である。世界のトッププロでも、日本の粘りつく湿気とぎらつく太陽への対応は、一朝一夕で身につくものではない。

そんなゴルフをはじめ、地の利を背に連日連夜、表彰式に日の丸がなびくはずだ。そして、その感動が、怒りもやるせなさも忘却の彼方に吹き飛ばしてくれるのだろう。なんだ、それではオリンピック・ファミリーの思うツボではないか、と言うなかれ。ええじゃないか、ええじゃないか。(小林至・桜美林大教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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