ウッズが「全米プロ」コースで練習ラウンド
ウッズはゴルフ史上ダントツ アスリートの懐事情/小林至博士のゴルフ余聞
MLBエンゼルスの大谷翔平選手の競技外収入が年間2000万ドル(約25億円:1ドル125円で換算)だと、米フォーブス誌が報じた。同誌が試算したもの。内訳は日米の企業計15社とのスポンサー収入(エンドースメント)ということだが、競技外収入が他の競技に比べて低い野球において、この金額は出色である。
過去の最高額はヤンキース一筋で現役生活を全うしたデレク・ジーターの年間11億円(2012-2014年)で、現在、野球界で大谷に次ぐのはナショナルズのスラッガー、ブライス・ハーパーの7億5000万円である。
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私たち市井の人間からすればスゴイ額だが、マクロ視点に立つと、野球を「する」市場は若年層であり、「見る」市場も世界的とはいえず、競技外での収益機会は限定的である。一方、世界的に普及している競技のスター選手は多国籍企業のグローバル・アンバサダーとして、とんでもない競技外収入を稼いでいる。
通信手段、とりわけインターネットの発達により、スマホでポチッとすれば、世界のあらゆる競技の映像を自由に満喫できるこの世の中において、グローバル展開あるいはそれを試みている企業にとって、世界的知名度を誇るスーパースターの価値は劇的に増しているのだ。
タイガー・ウッズはその象徴である。生涯獲得賞金額の150億円はゴルフ史上ダントツだが、生涯競技外収入はさらに一桁違う2000億円である。2021年は、自動車事故で重傷を負った影響で一度もプレーしていないが、競技外収入で72億円を稼ぎ、フォーブス誌のアスリート長者番付で12位に入った。
むろん、ウッズはバスケットボールのマイケル・ジョーダン、ボクシングのモハメド・アリ、サッカーのペレと並び称される、ゴルフ競技の枠を超えた別格のアスリートではあるものの、一流プロゴルファーは概して、競技外収入が賞金を上回っている。
例えば、フィル・ミケルソンは賞金額3億円に対して競技外収入は50億円、ロリー・マキロイは賞金6億円、競技外35億円、そして松山英樹は賞金6億円、競技外25億円と推定されている。
ゴルフと同じく世界中で親しまれ、顧客の中心が富裕層であるテニスも同様に競技外収入が多く、その筆頭であるロジャー・フェデラーは2000年、賞金8億円、競技外125億円で世界長者番付のトップに輝いた。ちなみにフェデラーの最大の収入源はユニクロとのエンドースメントである。
近年のアスリートは稼いだお金の運用もうまい。2021年の長者番付で首位に立ったコナー・マグレガー(格闘家)の収入の90%は、自身が開発に携わったウイスキーの販売と、その製造会社の株式売却によって得たものである。アスリートの副業が武家の商法と揶揄(やゆ)されたのは今や昔。現代はマーケティングの時代である。(小林至・桜美林大教授)
- 小林至(こばやし・いたる)
- 1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。