セベ、オラサバル、ガルシア…ラームが受け継いだグリーンジャケット
2023年 全米プロゴルフ選手権
期間:05/18〜05/21 場所:オークヒルCC(ニューヨーク州)
セベからラームへ スペインの英雄系譜/小林至博士のゴルフ余聞
ジョン・ラームが「マスターズ」優勝後、その存在がなければゴルフをしていなかったかもしれない、と感謝を捧げたことで、改めて偉大さがクローズアップされたセベ・バレステロス。ホセ・マリア・オラサバル、セルヒオ・ガルシア、そしてラームと続くスペインゴルフの開祖で、プレーとカリスマ性は世界中のゴルフファンを魅了した。私もそのスーパースターに魅せられた一人である。
1979年「全英オープン」でメジャー初優勝を遂げた際の16番で、ティショットをはるか右に曲げて打ち込んだ駐車場からのペタピンショットなど数々の伝説。全盛期を見ている方は、おそらく私よりももう少し上、60代~70代だろう。私がリアルタイムで見たバレステロスは、その輝かしい現役時代の最後のほうである。
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初めてじっくり見たのは1995年の「ライダーカップ」だった。大学院の校友のアパートに数人で集まり、テレビ観戦していた。千葉ロッテマリーンズを自由契約になった後、留学目的で渡米していた私は、現役時代は手を出さなかったゴルフにすっかりはまっていた。
ライダーカップの熱気のすごさは、本稿を読んでくださっている皆さんであれば、ご存じだろうが、インターネットもゴルフ専門局もなかった当時、名誉だけをかけた隔年開催の欧米対抗戦の存在を知っている日本人はまれだったと思う。私も、友人宅で中継を見るまで、全くその存在を知らなかったが、大観衆のもと、両陣営が死闘を繰り広げる様子に目が釘付けになった。
世界のトッププロが一同に集う大会のなかでも、バレステロスの存在は際立っていた。記録をみると、出場機会は2日目のフォーボールと最終日のシングルだけ。だが、中継カメラはことあるごとにバレステロスを映し出していた。慢性的な腰痛もあって不振にあえいでいたバレステロスのティショットは、目を覆いたくなるような引っ掛けとすっぽ抜けのオンパレードで、2打目はほとんど林の中へ。それでも、動じることなく、奇跡的なリカバリーショットを放ち、パーを拾い続ける。
そんなバレストロスをもっと見たいと思っていたら、1997年のライダーカップで実現した。その前年、大学院を修了した私は「ゴルフチャンネル」に入社していて、日本で初となるライダーカップの生中継にコメンテーターとして携わった。大会の目玉は、初出場のタイガー・ウッズだったが、中継カメラはウッズと同じくらい、欧州チームのキャプテンとして檄を飛ばすバレステロスを追っていた。それほどカリスマ性があった。
5月のメジャー第2戦「全米プロゴルフ選手権」はニューヨーク州ロチェスター近郊のオークヒルCCで開催される。1995年にライダーカップが開催された会場である。ラームが勝てばスペイン人で初めてキャリアグランドスラムに王手をかける。この時期の五大湖周辺の天候は寒暖差が激しい。どんなドラマが待ち受けているのか、今から待ち遠しい。(小林至・桜美林大学教授)
- 小林至(こばやし・いたる)
- 1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。