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小林至博士のゴルフ余聞

アッと驚く“合併劇” プロスポーツ界に見る対立と協調の歴史/小林至博士のゴルフ余聞

米PGAツアー(プラスDPワールドツアー)とLIVゴルフ。アッと驚く“合併劇”だったが、プロスポーツ界では競合団体が泥沼の対立から一変、にっこり握手を交わすケースは実は結構ある。

野球界では19世紀末の黎明期に数多のプロリーグが立ち上げられたが、そうした中、選手の引き抜き対策や所属チームのスケジュールなどを契約によって整備したナショナル・リーグ(ナ・リーグ)が抜きん出た。これに対抗すべく生まれたのがアメリカン・リーグ(ア・リーグ)で、高額報酬で選手を引き抜き、1901年には自らをメジャーリーグと宣言。翌年には、観客動員においてナ・リーグを凌駕するまでになった。

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すると、ナ・リーグは、競争から協調へと方針を転換し、翌1903年、両者をメジャーリーグとすることや、利害調整のための機構を設けることになった。そして、その秋、両リーグの優勝チームによる選手権シリーズ、第1回ワールドシリーズが開催されることになった。

世界最高峰のプロリーグであるNFLも、対立と合併の歴史を経て現在の構造に至っている。最大の転機となったのは、1960年、NFLへの加盟を拒否された大富豪がAFLを創設したことだ。AFLはテレビ放映権の均等分配などを通して所属チームの経営安定を図りつつ、選手をNFLから次々と引き抜き、急速に人気となった。

すると両者は歩み寄り、1966年、1つのリーグのもとに、カンファレンスとして共存すること、カンファレンス王者による優勝決定戦を行うことを決定した。スーパーボウルもライバルリーグの登場と対立からの協調の産物なのだ。

ゴルフと同じく、世界中に普及している個人競技であるプロテニスも、今でこそ男子プロはATP、女子プロはWTAという世界統一団体のもとで安定した経営がなされているが、そこに至るまでにはやはり選手の引き抜き合戦や団体間の対立が存在した。テニスはアマチュアリズムに支配されてきた歴史が長く、プロは主要な大会から締め出されており、地位も低かった。こうした状況下、プロ選手が輝けるツアーとして、1967年に誕生したのがWCTである。

WCTはタイブレーカーの導入や、カラフルな服装の採用、客席からの拍手喝采を促すなど観客目線での革新策を次々と打ち出した。さらにプロテニス選手の試合出場や賞金について制限を課す国際テニス連盟(ITF)に対して訴訟を起こすなど、プロテニスの産業化に大きく貢献した。1972年に誕生したプロテニス選手協会(ATP)とは、トップ選手の所属やトーナメントの重複開催を巡って長らく競合関係にあったが、1990年にATPツアーとして統合された。

これらの例から分かるように、競合団体の登場が緊張と分断と混乱を生むのは確かだが、競争を経て双方の団体が向上し、最終的には協力や統一へとつながっていく。

LIVゴルフと米PGAツアー、DPワールドツアーの大連立は、現在進行形で成り行きを見ていた私たちからすると驚きだが、大局的には歴史は繰り返されたということだ。そして、過去の例にならえば、新たな競技方法や演出が生まれるはずだ。楽しみである。(小林至・桜美林大学教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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