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2021年 ザ・プレーヤーズ選手権
期間:03/11〜03/14 場所:TPCソーグラス(フロリダ州)

全ショットライブ中継の本気度 遊びゴコロいっぱいの「プレーヤーズ」

◇米国男子◇プレーヤーズ選手権 最終日(14日)◇TPCソーグラス(フロリダ州)◇7189yd(パー72)

メディアセンターに入って最初にすること。最近はたいてい、パソコンにWi-Fiをつなげる作業になる。運営スタッフが設定してくれるパスワードの多くは大会名や年度が組み合わさったものなのだが、「プレーヤーズ選手権」は毎年、ほんの少し“遊び”が効いている。

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今年は「ReturnoftheRors」だった。Rorsはロリー・マキロイ(北アイルランド)のニックネームで、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった昨年を経て、ディフェンディングチャンピオンが2年越しで帰ってきたこと(Return)を示したもの。ちなみにタイガー・ウッズの復活劇を記したドキュメンタリー番組の題名は「Return of the Roar」(大歓声が帰ってきた)で、こちらに引っかかってもいる。

PGAツアーの威信をかけたフラッグシップ大会は今年、インターネット放送で選手たちが打った4日間のべ3万以上のショットを有料会員向けにライブ配信した(米国のみ。諸外国ではディスカバリー社のGOLFTVで限定配信)。初日で終わってしまった前年に実施されたサービスで、すべてのティイングエリアに無人カメラ、グリーンに有人カメラを配置し、各ホールのフェアウェイでもカメラマンがボールを追った。

新たに準備されたカメラは90台以上に上り、テレビや他大会同様のネット放送用のものを合わせると120台にもなった。もちろん、それだけの動画をただ垂れ流しているわけではなく、映像を切り替える「スイッチャー」を含め、63人のスタッフが英国ロンドンで同時作業を行った。広大なフィールドで、観たい選手のプレーを違う組でも余すところなく観ることができる。そんな時代がいよいよ来た。コロナ禍で例年の20%程度にチケット販売を抑えた今年においてはなおさら優良コンテンツといえるものだったはずだ。

「プレーヤーズ」は来場するギャラリーへのサービスも充実している。数年前から、ドライビングレンジに複数台配備された弾道計測器が、練習中の任意の選手のショットを計測。そのデータを脇にある電光掲示板に表示させる。ブライソン・デシャンボーがどれだけのスピードでクラブを振り、どれだけ飛んで、どれほど曲がらないか(曲がるか)も一目瞭然だ。

テクノロジーを駆使したサービスの背景には放映権等を元手にした莫大な資金力があるのは間違いない。ただし、TPCソーグラスはこれほどPGAツアーが盛り上がる前から観る人のためのコース設計を重視した。初代コミッショナー、ディーン・ビーマンは1970年代にピート・ダイに当地での設計を依頼した際、「スタジアムゴルフ」の構想を描いた。「ゴルファーの技術を正確なペナルティをもってテストするだけでなく、観客に高台の円系劇場型の座席からの最高の視界を提供するコースをつくる」(世界ゴルフ殿堂より)。

グリーン周りだけでなく、多くのホールでロープの外側がせり上がっていることから、そこを歩くギャラリーは目線の下で選手の姿やボールの行方を追うことができる。また通常、腰の高さほどあるロープはグリーン周りでひざ下ほどに下げられている。こうすることで、地面や椅子に座って観戦していてもロープが視界の邪魔にならない。

トップレベルのゴルファーに敬意を払い、彼らの技術にとことんフォーカスを当てる一方で、72ホールの戦いは“イベントの一部分”という見方もできる。例年通りであれば開幕前の指定練習日の夕方にはコース内でアーティストによる野外ライブが開催され、老若男女がビールやカクテルを片手に大騒ぎしていたはずだった。

試合前のある日、まだよちよち歩きの女の子が、家族に見守られながら陽だまりの中で無邪気に遊んでいた。敷地内は球が飛んで行かないようなところまで芝生がびっしり張られている。こんなコースなら、子どもたちがゴルフを好きになるかはわからないけれど、ゴルフ場のことは好きになってくれるかもしれない。

幸い、開幕前日の恒例行事“キャディコンテスト”は今年も行われた。選手の練習ラウンド中、名物パー3の17番でアイランドグリーンに向けてティショットを放ち、ピンまでの距離を競い合う。松山英樹のバッグを担ぐ早藤将太キャディも勇んで参加。今年は松山の自宅に置いてある、自分のウェッジを持参してキャディバッグに忍ばせてきたのだが…。

出番になるとティイングエリアで向かい風を感じ、結局先輩にPWを借りることに。真剣な表情でアドレスに入ろうとしたその時、「あ、グローブも貸してください」と振り返り、周りは爆笑の渦に。結局ショットはピンから遠く、今年もガッカリだった。優勝したのは35㎝を記録したハロルド・バーナーIIIのキャディ、クリス・ライスで、賞品である今大会のVIPエリアの駐車券などが贈られた。

大会開幕を翌日に控えた水曜日の夜。PGAツアーがメディアに最後に送る「プレスリリース」は、このキャディコンテストの結果だ。上位3人の詳細記録が残されている。見る人によっては、ただのお遊びにすぎない。けれど、遊びもたくさんの人の熱量がこもれば、ちょっとしたイベントになって、大きな力にもなる。いまでこそ一大産業になったプロスポーツだって、何十年も何百年も前は同じだった。

コロナはこれまでの常識や慣習が、新しい時代に必要か、不必要かを厳しく問うてきた。多くの人にとって「なくても生きていける」と、そっぽを向かれかねない娯楽産業こそ、本気度がいっそう試される。本気が詰まった遊びは人の心を打つ。ああ、そうか。この試合は「PLAYERS」だった。(フロリダ州ポンテベドラビーチ/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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