「 ZOZOチャンピオンシップ」最終スコア
2024年 ZOZOチャンピオンシップ
期間:10/24〜10/27 場所:アコーディア・ゴルフ習志野CC(千葉)
あれやこれやのZOZO6年間 日本唯一のPGAツアーを振り返る
2024/10/28 17:27
◇日米ツアー共催◇ZOZOチャンピオンシップ 最終日(27日)◇アコーディア・ゴルフ習志野CC(千葉)◇7079yd(パー70)◇晴れ(観衆1万1062人)
全ての選手がスタートを切り、ひと息つこうとした頃、大会運営スタッフのインカムに報告が入った。「グリーンで、親子連れがピンフラッグを持って記念撮影をしています!」。練習場や、空きスペースでのことではない。つい先ほどまで、プロゴルファーがパッティングをしていた1番ホールのグリーン上だった。今から5年前、「ZOZOチャンピオンシップ」の第1回大会の一コマだ。
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2019年に日本で初めて行われたPGAツアーの公式競技はゴルフ関係者にとって、そんな驚きの連続で始まった。記念すべき初回大会で優勝したのはタイガー・ウッズ。サム・スニードに並ぶツアー最多の82勝目を飾った舞台の裏では、記録的豪雨に見舞われたコースの懸命な復旧作業があったことを忘れてはならない。無観客開催の1日があったにもかかわらず、試合期間中の来場者数は4万3777人(練習日を含むと5万4840人)を記録した。
新型コロナウイルスの蔓延により米カリフォルニア州で開催した2020年を経て、再び日本に戻った21年大会は混迷を極めた。コロナ禍の世界は続き、国内では8月の「東京五輪」を除けばあらゆる国際的な興行が中止になる中、大会は来場者を1日5000人に制限、マスク着用を義務付けて断行した。
チャーター機による出国前後の検査はもちろんのこと、“バブル”内の行動が徹底された選手・関係者用のホテルでは、部屋の行き来が自由にできないよう、エレベーターのボタンを押すためのスタッフまで配置した。
未曾有の混乱期に懸命に抗った日々は、その年の「マスターズ」を制した松山英樹の凱旋優勝に昇華する。
世界基準と言えるコースセッティング、スタンドやホスピタリティテントの規模の違いは、国内でプレーする選手にとっては目新しいものばかり。来場者のみならず、出場選手たちへの“もてなし”でも心を尽くすのがPGAツアーであり、大会が目指したものだ。米国を主戦場にしてきた松山、小平智にとっては“常識”かもしれないが、6年連続で出場した今平周吾は、ZOZOの魅力のひとつに「朝ごはんがおいしい」ことを挙げた。
ブッフェ形式の選手レストランには、日本での試合ではなかなかお目にかかれないほど多くのメニューが並んだ。初回大会こそ欧米選手の舌を満足させるべく洋食ばかりを並べたが、2021年大会からはメニューに日本食が増えた。せっかく来日した外国人選手からの希望があったからだ。
26歳のサヒス・ティーガラは22年の初出場から3回続けてZOZOでプレー。「ツアーでナンバーワンのダイニングだ」と言い、中トロ、サーモンと毎日のように寿司を平らげた。朝食ではホカホカごはんに醤油をかけ、スクランブルエッグを乗せる一風変わった卵かけご飯が、近年の外国人選手の間でちょっとしたブームになった。
6年契約の最終年。ZOZOは今大会でタイトルスポンサーから降りる。関係者によると、PGAツアーは2025年以降も秋季シリーズでの日本開催を目指しているが、歴代チャンピオンに恵まれた、異質の大会はいったん一区切り。
初回から、トーナメントディレクターとして尽力したZOZOの畠山恩(はたけやま・めぐみ)さん。毎年夏場にかけて渡米し、試合会場でウッズやロリー・マキロイ(北アイルランド)、ザンダー・シャウフェレやリッキー・ファウラーといった人気選手に出場ラブコールを送り続けた人だ。社内外のあらゆる部署との折衝では、日米それぞれの常識のすり合わせにも多くの時間を割いた。PGAツアーの常識をただ飲み込むのではない。銃社会でもなく、クルマ社会でもない日本に、本場のプロゴルフをいかに溶け込ませるかに苦心した。
それは、はたから見ていても“おもてなし”という言葉で表せる範疇を優に超えていた。大会が残してきたものについて、畠山さんは少なからず胸を張る。「最初の大会の“グリーンでの記念撮影”は笑い話ですけど、逆に言えば、それまで日本でゴルフ観戦をしたことがないお客様にも多く来ていただいたことの裏返しでもあると思う」。ゴルフは“上級者”だけのものではない。世界最高峰のプロゴルフ観戦の敷居は、ある意味では国内のどの試合よりも低かった。
「大人の皆さんの目がキラキラして、色んな選手を純粋に追いかけている姿を見ていると、『頑張って良かったなと思う』と、いつもうれしくなった」。日曜日。バックヤードで行われた朝礼で、畠山さんはあいさつから感極まって泣いた。この日の来場者は1万1062人、練習日を含む5日間で3万7069人のギャラリーが、最後のZOZOを堪能した。(千葉県印西市/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw