「全米オープン」3日目のトリビア
2014年 全米オープン
期間:06/12〜06/15 場所:パインハーストNo.2コース(ノースカロライナ州)
異次元の逃げ切り カイマーはサッカー代表とともに母国の星に
ボールが消えるより早く、パターはその手から離れ、10本の指先はゆっくりと空を向いた。目を細め、恍惚の表情で口元が緩ませる。雄叫びも、派手なアクションも無い。掴んだものの大きさを実感するかのような神々しいフィナーレだった。
ノースカロライナ州のパインハーストNo.2で行われた「全米オープン」最終日。29歳のマーティン・カイマーが後続に8打差をつける別次元のゴルフを展開し、ドイツ勢初の大会勝利、2010年「全米プロゴルフ選手権」以来となるメジャータイトル奪取に成功した。初日から単独首位の座を一度も譲らない完全優勝は史上8度目(9人目)。欧州出身選手のうち、20代でメジャーを複数回制したのはベルンハルト・ランガー、トニー・ジャクリン、そしてロリー・マキロイに続く4人目の選手となった。
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予選ラウンド2日間でいずれも「65」を叩き出し、早々に築いた独走態勢。超難度のセッティングでのビッグスコア連発に、周囲はもはや呆れ顔だった。最終日最終組を戦ったリッキー・ファウラーは「彼はこの試合を自分だけのものした」。ヘンリック・ステンソン(スウェーデン)は「ある意味では2日で試合を終わらせてしまった」と一人旅を表現した。
とはいえ、カイマーが逃げ切れたこの4日間は、ここ数年のキャリアが凝縮されたものでもあった。思えば2010年に「全米プロ」を制し、翌年には世界ランクトップにも立った。しかし、それ以後は低調なプレーも続き、今年4月初旬のランキングは63位まで低迷。4年間の浮沈は「ものごとはそう簡単に進まない」と痛感する期間だった。そして今週はムービングデーに「72」と停滞。最終日に再び気を引き締める材料としては十分といえた。
サッカー大国ドイツで生まれ、今週開幕したワールドカップから目が離せないのは彼も同じ。2日目を終えた段階で、カイマーはサッカー代表選手のひとりからテキストメッセージを受け取った。「最高じゃないか。週末にベストを尽くせることを代表選手全員で願っている」―。それに対する返信は「まだ、ハーフタイムだ」だったという。
「ドイツではやっぱりサッカーの方がゴルフよりはるかに人気があるんだ。でも僕がメジャーで2つ勝って、ライダーカップ出場に向けても結果が出た。ドイツでソルハイムカップも開催される。これから数年間で、ドイツのゴルフ界にはきっと変化があるだろう」
サッカーワールドカップが開催される2010、14年に獲ったメジャータイトルは、単なる
偶然か?バウンスバックを繰り返した4年間。他を圧倒した4日間には、自信を固いものにしていく様が凝縮されていた。(ノースカロライナ州パインハースト/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw