世界トップクラスの資質 藤本佳則の“慎重さ”【佐藤信人の視点】
2017年 クイッケンローンズ・ナショナル
期間:06/29〜07/02 場所:TPC ポトマック・アット・アヴェネルファーム(メリーランド州)
パターで苦労する選手に福音か? 「クローグリップ」の利点
◇米国男子◇クイッケンローンズ・ナショナル◇TPC ポトマック・アット・アヴェネルファーム(メリーランド州)◇7139yd(パー70)
先週の「クイッケンローンズ・ナショナル」は、カイル・スタンリーがチャールズ・ハウエルIIIとのプレーオフを制して、5シーズンぶりの優勝を果たしました。約1mのウィニングパットを沈めた彼のグリップは、最近何かと注目される“クローグリップ”でした。
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“クローグリップ”とは、左手で親指がシャフトの真上にくるように握り、右手をそっと添えるように握る変則グリップのことです。最近では、今年の「マスターズ」覇者セルヒオ・ガルシア(スペイン)、2位のジャスティン・ローズ(イングランド)らが取り入れ、国内では現在賞金ランキングトップの宮里優作も採用しています。
この握り方のメリットは、右手の感覚を殺すことができる点です。パット巧者はどのような状況でも、同じタイミングで同じ力量で打つことができるものですが、パットを得意としていない選手は、何球かに一度、どうしても利き手が強く出てしまう悪癖に苦しみがちです。特に現在のPGAツアーでは、ほとんどが高速グリーン。ちょっとした右手の“暴れ”が大ケガにつながり、勝敗に直結します。
そんな“クローグリップ”で今回勝利を手にしたスタンリー。彼は試合直後の会見で、「自分のゴルフが永遠に戻ってこないのではないか?と疑った時もあった」と話しました。2012年にツアー初優勝してから長いスランプに陥っていましたから、その言葉には大変重い実感がこもっていました。
スタッツを見れば分かる通り、飛距離は申し分なく、パーオン率も必ず上位にくるほどのショットメーカー。もともと唯一の欠点パットさえ克服できれば、2勝、3勝…とすぐにできる逸材として見込まれた選手です。現在29歳。多くの後輩たちが次々に活躍を始める中で、苦労人が見出した答えが、この“クローグリップ”だったのでしょう。
ガルシアもそうですが、苦労人たちがこうやって花開く姿の裏には、並々ならぬ苦悩と葛藤があったと想像できます。プロだからこその泥臭さや執念のような思いを見出すことができます。こうした姿が多くの観衆を魅了するのだと改めて思いました。(解説・佐藤信人)
- 佐藤信人(さとう のぶひと)
- 1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。