初日敗退でも3686万円ゲット LIV最終戦も脅威の賞金額
やさしく、難しいLIVゴルフ観戦 新リーグが生み出すギャップ
2022/10/30 09:54
◇LIVゴルフシリーズ◇LIV招待 マイアミ 2日日(29日)◇トランプナショナルドラール(フロリダ州)◇7702d(パー72)
スクリーンに映し出された惨劇に、報道陣の多くは息をのんだ。メディアセンターの前方に設けられたデジタルのリーダーボードはあの日の朝、緊急ニュースの映像に切り替わった。2011年3月。世界選手権シリーズ「WGCキャデラック選手権」の会場では、東日本大震災で被災した日本国内の様子が緊迫感を持って伝えられていた。
<< 下に続く >>
あれから11年半.フロリダ州ドラールの同じメディアセンターは様変わりした。巨大スクリーンの位置は会見場の壇上となり、そこに座る選手は皆、笑顔だった。パッティンググリーンの周りでたなびくのは各国の国旗ではなく、12のチームロゴと、「LIV GOLF」と記された真新しいフラッグだ。
サウジアラビア政府系資本をバックにして6月に開幕した新リーグは10月末、このドラールで初年度のシーズン最終戦を開催。半年の間、PGAツアー、欧州ツアーとの対立の話が先行し、新リーグの現場の雰囲気はどこか見えにくかったが、場内に足を踏み入れると既存のツアー会場とは確かに違うと感じる点も多くあった。
震災翌年の2012年にドナルド・トランプ氏が買収したこの地は、宿泊施設がある豪華絢爛(けんらん)なリゾート。エントランスからメディアセンターのあるクラブハウスまでの5分程度の道のりは、しばしば迷うことがあったと記憶している。それが今年、道中には行き先を示す親切なサインが掲示され、スムーズに目的地にたどり着くことができた。
場内で目を引いたひとつが、ギャラリーに対する“注意書き”である。ゴルファーのマナーである「フォア―!」を説明する看板が立っていた。「場内では打球が当たる可能性があります。(選手らが発する)“フォアー!の叫び声に注意しなければならなりません。”フォアー!“と聞こえたときは、しゃがんで、頭や顔を守りましょう」。確かに、来場者は必ずしもゴルフをよく知る人々とは限らない。その場の常識が”当たり前“でない人はたくさんいる。
敷地内に設けられたライブ会場。PGAツアーでも珍しくないが、試合前からDJが音楽をかけているかといえば別。それができるのは48人に限られたフィールド、ショットガンスタートによって全体の競技時間が短く、正午過ぎに試合を始める新リーグ大会のなせる業でもある。グッズ売り場は新リーグが掲げる、将来の各チームのフランチャイズ化の象徴とも言え、12チームのロゴの入ったキャップやシャツが各スペースで販売されていた。女性店員によると「“54”%はハリケーンの被災地に寄付される」という。
派手な演出、新しい施策のうたい文句が目立つ一方で、本来のスポーツ観戦という面では少々“難解”だった。複数の選手の戦況、途中経過がなかなか把握できない。
最終戦は各組4人が力を合わせる団体戦だけが行われ、初日、2日目は4チーム vs 4チームのマッチプレーを実施。各組2人がシングルスマッチプレー、残り2人はダブルスマッチプレーを行い、合計の勝ち数で翌日に進む4チームを決めた。最終日こそ4チームの計16人が18ホールを回り、ストロークの合計数を競うシンプルなフォーマットだが…。
例によって、試合はスタートホールがそれぞれ違うショットガンスタートで始まり、目まぐるしくリーダーボードのスコアが入れ替わる。「ライダーカップ」や「プレジデンツカップ」のような2チームの対戦ではないから、どうにも経過が頭に入ってこない。
そもそも(まだ)12チームそれぞれに属する選手名を、頭でリンクさせることが難しい。慣れていない、といえばそれまでだが、ショットガンスタートはどの選手が今どこをプレーしているか、どのホールで終わるかを把握するのに調べる手間と時間がかかり、観戦ルートを描くこと、戦況を追うのが実に難しい。
新規のファンの囲い込み、ゴルフ場に足を運ばせることについてはハードルを低くしている一方で、ことゴルフの競技性に焦点を当てた観戦については、高いレベルの知見を求められているように思えた。そのギャップは時間が経てば、埋まるのだろうか。
関係者によると、14試合を予定している来季は各チームを同じ出身国や地域別で固めたり、チーム数を「15以上」に拡大したりする構想があるという。それぞれのフランチャイズ化、競技性を高めるためには、いっそうのタレント確保が欠かせない。既存ツアーからのスター選手の“引き抜き”の画策がこれで終わりでないことは容易に予想できる。(フロリダ州ドラール/桂川洋一)