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誰も書かない…松山が2015年メジャー制覇に必要な課題3点とは?

解説者アンディー和田の視点

米男子ツアー本格参戦を果たした松山英樹の2014年は、6月に「ザ・メモリアルトーナメント」で優勝、フェデックスカップポイントでは30位以内に入り、プレーオフシリーズ最終戦の「ツアーチャンピオンシップ」にも出場した。世界ランキングでは13位と自己ベストを更新(年末最終ランクは16位)。米国ツアーに正式メンバーとしてフル参戦した1年目としては、素晴らしい結果を残した。

一方で、良い結果につなげることができなかったのは4大メジャー競技だった。左手首を痛めて十分な準備ができなかった「マスターズ」では初日に39パットを喫してしまい「80」と出遅れて予選落ち。「全米オープン」では週末にスコアを落として35位。「全英オープン」では2日目にバンカー群に捕まるなど苦戦して39位。「全米プロ」では2日目に上がり2ホールでバーディ、イーグルと巻き返してギリギリ予選通過を果たしたものの、最終的には35位と上位に絡むことはできなかった。

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2013年は予選会から出場権を得た「全米オープン」が10位、「全英オープン」は 6位。そして「全米プロ」19位だった。 前年度の結果を考慮すると今年は力を十分に発揮できなかったメジャー挑戦だったといえるだろう。

松山の2014年メジャー、計14ラウンドを以下の「表」で検証してみた。上位に絡んでいる選手と同じぐらいイーグル、バーディを奪取できているが、ボギー、ダブルボギーが多い分スコアを伸ばすことができていないのが分かる。

順位スコアイーグルバーディーボギーダブルB
マスターズ
バッバ・ワトソン1位(36ホール)7アンダー92
ジョーダン・スピース3位(36ホール)3アンダー165
アダム・スコット3位(36ホール)3アンダー831
松山英樹予選落ち7オーバー7102
全米オープン
マルティン・カイマー優勝9アンダー1169
リッキー・ファウラー2位1アンダー13101
ジェイソン・デイ4位1オーバー89
アダム・スコット9位2オーバー1012
松山英樹35位8オーバー11152
全英オープン
ロリー・マキロイ優勝17アンダー2207
セルヒオ・ガルシア2位15アンダー2187
リッキー・ファウラー2位15アンダー238
ジム・フューリック4位13アンダー1165
松山英樹39位1アンダー1615
全米プロ
ロリー・マキロイ優勝16アンダー22171
フィル・ミケルソン2位15アンダー1218
リッキー・ファウラー3位14アンダー228
ジム・フューリック5位12アンダー175
松山英樹36位3アンダー117141

私は実際にツアー会場で松山選手のプレーを観察したり、秋の新シーズン2戦は練習場中継の解説担当をしていて密着取材をすることができた。プレー内容だけでなく、プレー後の練習方法を確認していくうちに松山選手の課題、向上ポイントのようなものが見えてきた気がするので、ここで紹介したい。

(1)ピンを狙わないセーフティショットを増やす

確かなショット力で攻めるゴルフに徹する松山英樹。2014年度のPGAツアーデータを調べてみると、松山の「GIR(パーオン率」 」はツアー116位(64.03%)と低いが、「Proximity to the hole(グリーンを狙ったショットの結果、カップまでの残り距離=グリーン外約30ヤード以内)」のデータ部門で5位(32フィート6インチ=9.9m)と、抜き出ている優れた数字をマークしている。

ピンそばに打てているのに、グリーンに乗る率が低いということは端から4歩、5歩という狭いエリアを狙い、場合によってはカラーやピン付近のラフやバンカーに外しているケースもあるということ。 常に旗を狙っていく攻めのゴルフはバーディを獲るに大事だが、メジャー設定のコースだと スペースのない方に外してしまうと、パーセーブが通常の試合よりも更に厳しい状況になる。

ピンを狙わずに パールートを探す忍耐力も大事なこと。風の状況、残り距離、ボールのライ、左右前後の厳しいピンポジション…など色々な要素を考慮しながら、広い方を狙うセーフティショットと攻めとのバランスを、1ラウンドにつき1ホール、2ホール変えてくるだけで、ピンチの回数や深刻度はずいぶん変わってくるだろう。

もう一つ気になるのは 奥のピンに対し ボールが飛びすぎてグリーンオーバーをするケースが多く見られること。

松山のインパクトは、グリップポジションとシャフトが左足の方に移動するハンドファーストの位置にある。このポジションでインパクトを迎えるということはロフトが少なくなるということ。普通の状況では重いインパクトで鋭い球を生むが、アドレナリンが出る勝負どころで必要以上にインパクトが強くなり過ぎると予想よりもボールが飛んでしまうことがある。

具体例をあげるとパインハーストでの全米オープン、3日目の3番や9番ホールなどで グリーンオーバーしてダブルボギーとボギーにしている。

奥のピンを狙うにはキャリーでピンの根元を攻めるだけでなく、もう一つの技があるとグリーンオーバーを防げるだろう。弾道を低くしてスピンを減らし、ボールを転がしてピンまで届かせるショットを実践するとプレーの幅が更に広がるはず。

(2)スピン量を増やしたドライバーショットが必要

飛距離とフェアウエーキープ率を足したトータルドライビング(ティショット)で、松山のランクは31位。 実際、試合会場で観察すると軽いドローボールが持ち球の松山は、左からの風にあまり影響されずに強い球を打つことができるのが武器。右打ちで左からの風を苦手とする選手はタイガー・ウッズを含め多数いるが、松山の強い弾道はPGAツアーでもトップ5にある鋭い球だ。

しかし…-松山のドライバー弾道を見ていると、スピン量がもう少しあっても良いかな?と感じる。テニスで例えるとフルパワーで打つファーストサーブに加えて、スピンを利かせて確実性を高めるセカンドサーブのバリエーション。

特にそう感じるのは、PGAツアーの設定で最近増えているワンオンを狙わせる300~310ヤードのパー4設定の時だ。3番ウッドでは届かないが、ドライバーで高弾道、高スピンでグリーンを狙うショットが要求される場面で、松山は今ひとつ上手く対応できていないと感じる。

パインハーストでは最終日3番が313ヤード、13番が314ヤードというワンオン可能なパー4設定だったが、松山は両方ともパー。高弾道でスピン量が多いキーガン・ブラッドリーはバーディとイーグル。同じく高弾道のジェイソン・デイは13番でバーディを奪って2人とも4位フィニッシュだった。

シャフトやボールを変えてスピン量を増やすという方法もあるが、私が薦めるのはクラブヘッドのリリースポイントを早くする打ち方。そうするとフェースの下部でボールを捕らえる事ができ高弾道、スピン量を増やすことができるはず。このリリースポイントを早める打ち方は、慢性化している左腕、左手首の痛みの負担も軽くするような気がする。

(3)前傾姿勢の深いパッティングについて

「総合的に安定していて弱点がない」と高い評価を受ける松山のプレーで、あえて不安要素を指摘するとなると、パッティングになるだろう。前傾姿勢を深くして、肩の動きでパターヘッドをコントロールするのが松山のパッティングスタイル。パターヘッドのスピードコントロールは、アメリカでも評価が高く、テークバックからダウンへの切り返しで打ち急ぐこともなく、高速グリーンに上手く対応することができている。

前傾姿勢が深い分、目線が下がってしまうと掴みにくいのがロングパットの距離感になる。特に「上ってから下る」という尾根越えのパッティングは苦手感があるような気がする。マスターズの初日には 3パットが3回、4パットも経験してラウンド39パットの「80」と苦しいラウンドを喫してしまった。スタンスの幅や前傾をアジャストすることでロングパット時には目線を変えるのはどうだろう。結果的にもう少し腕の振りを感じるようになればタッチも合わせやすくなるような気がする。

パターフェイスのコントロールも含め、試行錯誤しながら、強みに変えようと努力している姿は、現場で何度も見てきた。勝負を分けるポイントとなることを本人も自覚しているからに違いない。

★★★★★★★★

松山英樹のポテンシャル(潜在能力)はPGAツアーメンバーの誰もが認めていて、彼は「REAL DEAL(本物だ)」と評価は高い。メジャー制覇への道は、コンディションを整えて調子のピークを上手くメジャーの週に持っていけるかどうか? 開催コースの設計者の意図、芝生の違い、気候などを感じ取りながら 4日間の競技でどのように1打を削っていけるか?にあると思う。2015年のメジャー挑戦で、アクセルとブレーキを上手く使い分けられれば、松山英樹にそのチャンスが訪れるだろう。

<筆者・アンディー和田>

1968年生まれ。14歳で渡米し、南カリフォルニアでゴルフを始めてアリゾナ大学に進学。卒業後の1991年にプロ転向し、アメリカ国内のミニツアーやカナダ・南米・豪州・アジアなど世界25カ国で歴戦。青木功中嶋常幸らの米ツアー挑戦時にキャディーも経験した。2000年からはゴルフチャンネルでトーナメント解説者を担当した。



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