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2019年 全米プロゴルフ選手権
期間:05/16〜05/19 場所:ベスページ州立公園ブラックコース(ニューヨーク州)

犬猿の仲のふたり 9・11「復興」を超えたタイガーとフィルの物語/2002年ベスページの記憶

今年の「全米プロ」の舞台は、ニューヨーク州のベスページ州立公園ブラックコース。マンハッタンの東50kmに位置するニューヨーカーの憩いの場で、初めてメジャーが開催されたのは2002年6月の「全米オープン」だった。

前年の2001年9月11日、ニューヨークは米同時テロの標的のひとつになった。未曽有の被害を経験した街を重苦しい雰囲気が覆う中、「僕たちが普段集まる場所」で繰り広げられたライバル2人の優勝争いは“復興の象徴”を超える盛り上がりを見せたという。

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JJ田辺氏の証言

カメラマンとして大会を撮影しました。

テロから約9カ月。正直に言えば、広い米国内ではテロの被害をもうあんまり身近に感じていない地域もありました。しかし、ニューヨークの街はどこか活気を失っていました。ハイジャックされた飛行機が突っ込んだワールドトレードセンタービルの近くは瓦礫が片付いておらず、近くの駅はまだ電車が通っていない状態でした。

テロ当時、ある放送局が毎日午後11時半からコメディ番組を生放送していました。日本で言えば『笑っていいとも』のような国民的番組です。テロの後、しばらくはニュースが流され、放送は見送り。その後、放送が再開された初回、出演する人気コメディアンが番組途中で「いま、笑うことなんかできない…」と泣き出したのです。普段よく見ていた番組だったこともあるかもしれませんが、そのシーンがすごく印象に残っています。

大会は開幕前、復興の象徴という扱いで報道されました。ベスページ州立公園の3つのゴルフコースは公営です。普段はジーンズでプレーすることが許される、ある意味“敷居の非常に低い”ゴルフ場です。傷ついたニューヨークの人たちは「僕たちが普段集まる場所だ」と、初めてパブリックコースでメジャー大会が開催されることに誇らしさを感じていました。

会場に行くと、テロ対策の厳重化に驚きました。いまでこそ時々目にしますが、警察犬をゴルフ場で見たのは初めて。さらに入場ゲートには、金属探知機を持った警備員が多数います。テロ被害を契機に空港でのセキュリティチェックはすごく厳しくなりましたが、ついにゴルフトーナメントも厳しくなったのかと思いました。テロがすごく身近な存在になっているんだ、と実感した瞬間でもあります。

街には重たい雰囲気もありながら、試合が始まれば、普段のメジャー大会と変わりなく、いや、それ以上に盛り上がりました。火をつけたのは間違いなく、タイガー・ウッズフィル・ミケルソンです。いまでこそ練習ラウンドなどをともにしますが、当時の2人は犬猿の仲とされていました。そんな彼らが、最終日に優勝を争いました。

ニューヨーカーにどちらが支持されたのかと言えば、ミケルソンの方。すばらしいファンサービスは多くの人が知るところ。しかし、当時はメジャータイトルだけが遠かった。優勝のチャンスをつかみつつ土壇場で競り負けることが多く、そんな悲劇性も、ニューヨーカーたちの心をつかんだのかもしれません。

ミケルソンが勝つには最高の舞台が整っていました。単にメジャーを制するだけではなく、宿敵ウッズに競り勝つというシナリオです。ただ、やっぱりウッズが立ちはだかった。最終日に追い上げたミケルソンが後半16番で2mほどのパーパットを外した瞬間、負けを確信した観客たちのため息が漏れました。

しかし、観客たちの興奮は終盤で最高潮に達しました。ミケルソンを応援している人が多いと思っていたのに、ウッズが勝ったら、それはそれですごく盛り上がるんですよね(笑)。米国人、特にニューヨーカーの気質かもしれませんが、楽しいゴルフ観戦に来ているんだから「結果はどうあれ楽しまないと」という感じなのですかね。結局、最後は強いウッズを求めてしまうというか、ミケルソンの前に立ちはだかるウッズの姿がしっくりくる、というか…。開幕前に復興の象徴といわれた大会は、ゴルフ界のスター2人が大いにニューヨーカーたちを魅了する展開になりました。

かつてのワールドトレードセンタービル付近の駅に電車が再び走るようになったのは、テロから10年以上経過した後でした。いまなお、心を痛めている人は大勢いるはずです。ただひとつ言えること…活気を失いかけた17年前のニューヨークでウッズとミケルソンが優勝を争ったとき、そこには信じられないくらいの熱気が立ち込めていました。

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それから17年を経た2019年の「全米プロ」。4月の「マスターズ」制覇で復活の物語を完遂したウッズは、さらなる伝説に向けてメジャー2連勝に挑む。ミケルソンはベスページで開催された過去2度のメジャーでいずれも2位の惜敗に甘んじており、3度目の正直を期すことになる。

JJ田辺 福井県出身。ニューヨークを拠点にゴルフカメラマンとして活動する。1991年に渡米し、大学卒業後の96年から米国のゴルフ場で勤務した。98年からゴルフカメラマンとして、PGAツアーやLPGAツアーを撮影。現在は年間30試合以上を取材。メジャー大会は計57試合を撮影している。

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