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バティアやザラトリスまで PGAツアーで続く長尺パターブーム
プロアスリートは誇り高い。プライドは成功と因果関係にあり、専門分野で抜きん出る上で不可欠な自信を与えるが、同時に恥じらいや弱点を伝えかねないメソッドへの適応の妨げとなることもある。
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かつてNBAでシャキール・オニールは「下投げでシュートをするくらいだったら、フリースローを全て外す方を選ぶ」と言った。ウィルト・チェンバレンは「ばあさんショット」とあだ名されたメソッドを試し、それが向上につながったのに、すぐ使わなくなったことがあった。
不得手な分野の解決策という点で、長尺のブルームスティックパターは似ている。それはしばしば、年を取ったり、あるいは最も単純なショットのパットを毎回のように沈めることができなくなり、あがく者の支えと考えられてきた。そんな長尺パターが最近PGAツアーで徐々に人気を得ている。使う者が多ければ安心できるという側面もあるのだろう。
シーズンインにあたり、半ダースの長尺パターが実戦投入された。アクシェイ・バティア、ウィル・ザラトリスという最も将来が嘱望される有望株2人が使い、真っ先に思い浮かぶ存在としては、昨季2週連続優勝を挙げたルーカス・グローバーがいる。
アン・ビョンフン(韓国)も昨夏から使い始め、キム・シウー(韓国)は長尺パターで昨年の「ソニーオープン」を制覇した。キムは、アダム・スコット(オーストラリア)が2020年に「ジェネシス招待」を制覇して以来の、長尺を使ったツアー優勝者になった(先週の「ザ・セントリー」では短いパターを使用していた)。
長尺使いが増えている背景に何があるのか? 「彼らは自尊心を失ったんじゃない?自分がパターの名手でないことを表明しているようなもんだから」とは、ある選手の言い分である。
2024年開幕戦の「ザ・セントリー」では、最終2組の両方に長尺パターの使い手がいた。アンは最終組の1組前で回り、4位でフィニッシュ。この週のストローク・ゲインド・パッティングで18位だった。
バティアは最初の3日間を通して同スタッツでフィールドのトップに立ち、2位から出た最終ラウンドはスタートホールのダブルボギーもあって「71」にとどまり14位タイに終わった。それでも同スタッツは3位だった。
彼は23年の同スタッツが193選手中、183位だった。2位に入った「プエルトリコオープン」や優勝した「バラクーダ選手権」など、パットが冴えていた週にショットリンクが使用されなかったため、その順位は正当と言えないかもしれないが、21歳という年齢は長尺パターの使い手として、ツアー最年少と考えられている。「ヒーローワールドチャレンジ」で長尺パターを初めて実戦投入したザラトリスは、27歳だ。
長尺パターと縁が深いのはベルンハルト・ランガー(ドイツ)やスコット・マッキャロンらPGAツアーチャンピオンズのシニア世代で、20代ではない。バティアとザラトリスは、それぞれ唯一のPGAツアー優勝の23年「バラクーダ選手権」と22年「フェデックスセントジュード選手権」で、アームロックパターを使っていた。
今週の「ソニーオープン」は、顕微鏡視下椎間板ヘルニア摘出術を受けたザラトリスにとって、昨年3月以来のPGAツアー出場となる。長尺パターに替えたのは腰の負担軽減という側面もある。姿勢がよりアップライトになるからだ。しかし、大きな狙いはグリーン上の改善のため。22年のストローク・ゲインド・パッティングは103位だった。
ザラトリスは昨年11月の「ヒーロー―」で「僕はアームロックを何本か(L.A.B.ゴルフに)発注し、最終的にブルームスティックを何本か送ってくれたのだけど、実際に練習できるようになるまで3カ月ほどかかった。でも、即座に気に入ったよ。ラインが断然、良く見えるようになった。もっと安心して使える。自分がパッティングにムラのあることは分かっているからね」と述べた。
バティアは「ザ・セントリー」で初めて、1週間ずっと長尺パターを使った。「フォーティネット選手権」は“オーディション”として1ラウンドだけ使い、23年最後の大会「RSMクラシック」では最後の3ラウンドでバッグに入れた。また、先週は、最近のパッティングのトレンドであるオデッセイ「バーサ ジェイルバード」のヘッドが装着された長尺パターを使用した最初の週にもなった。リッキー・ファウラー、ウィンダム・クラーク、キーガン・ブラッドリーがカウンターバランスのジェイルバードを使用して、23年に勝利を挙げているのだ。
外野は何かと、こうしたクラブを使う者をすぐ中傷したがる。だから、長尺使いの“先輩”のグローバーはバティアに「忘れるな。君がどう判断されるかということで気にしている他の人たちは、君になりたいんだよ」と助言している。
とはいえ、そのグローバーでさえ、長尺への変更を決めるのに10年を要した。長い間“消耗する”イップスとの戦いを強いられた。
グローバーは「もしかしたら、私はかなり頑固なのかもしれない。というのも、今に至るまでの(過去)10年間、私は期待通りの成果を上げることができず、(その原因に)気付いていたのだ。すべての理由はパッティングにあった。自分を信じ、石頭になり、諦めきれないほど頑固になっていた」と述べた。
「解決するには、何かドラスティックな方法が必要だったが、上手く行ったんだ」
変更から間もなく、昨年8月の「ウィンダム選手権」「フェデックスセントジュードクラシック」の連続優勝を含めて6大会で5度のトップ6フィニッシュを記録した。2009年「全米オープン」優勝以降の11シーズンでわずか1勝しか挙げられなかった男が、キャリア初の年間複数回勝利を達成したのだ。
彼はスコットの長尺パターを製造するL.A.B.ゴルフに、スコットと全く同じクラブを送るように依頼した選手の一人である。また、スコットは「プレジデンツカップ」でチームメートだったアンとキムが長尺パターを使い始めるインスピレーションの源にもなった。GolfWRX.comの情報では、キムは22年「プレジデンツカップ」で長尺パターを実戦デビューさせている。
スコットは2011年に長尺パターを使い始め、13年に「マスターズ」を制覇した。16年にアンカリングが禁止され、長尺を一度は諦めたが、他の選手たちが新ルールに従って長尺パターを使う方法を編み出すと、使用を再開した。ただ、アンカリング禁止前でも、長尺パターを使用する勝者は稀だった。スコット以外で最も目立った成績を収めたのは、ティム・クラーク(南アフリカ)とカール・ペターソン(スウェーデン)の2人だった。
ベリーパターの使用が禁止されると、ウェブ・シンプソンやマット・クーチャーの用いたアームロックが、従来式のパターで苦しむ選手たちにとって好まれるメソッドとなった。果たして、長尺パターはPGAツアーにおける次なるパッティングのトレンドとなるのか?
(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)