「59」のコースに松山英樹が登場 2戦連続でマキロイと予選同組に
2015年 BMW選手権
期間:09/17〜09/20 場所:コンウェイファームズGC(イリノイ州)
<選手名鑑172>ハンター・メイハン
■ “Mr.サバイバー”9年連続トップ30、プレーオフ全36試合連続出場なるか!?
今週は世界最高峰の舞台、PGAツアーのトップ30を決める大会だ。全4試合のプレーオフシリーズは、初戦で125人から100人へ、2戦目で70人、今週の3戦目で30人へと絞られる。最終戦はシーズン絶好調の30人による王座争奪戦となる。
プレーオフシリーズは2007年からスタートし、今年で9年目を迎えた。各大会の賞金+4試合でポイント1位に輝いた選手は、プロスポーツ界最高額の1000万ドル(約12億円)を手にする。年間王者の称号と巨額ボーナスをめぐる約1カ月のバトルは、エキサイティングで、数々のドラマが生んできた。
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一度、圏外になってしまうと次戦はない過酷なサバイバル。これまで8年間、連続でトップ30に残った選手が1人いる。“Mr.サバイバー”ハンター・メイハン(33)だ。3戦目となる今大会は、9年連続出場の記録更新がかかっている。今季はかつてない厳しい状況から生き残ってきた。プレーオフシリーズ初戦の「ザ・バークレイズ」で予選落ちし、ポイントランク91位、かろうじて100位以内にとどまった。第2戦の「ドイツバンク選手権」で、上位フィニッシュしなければランク70位までが出場できる「BMW選手権」への出場は叶わない状況だった。しかし気合いの4位でランク52位に浮上させ、出場を決めた。
メイハンは今大会で「9年連続トップ30入り」、「プレーオフシリーズ全36試合連続出場」の大記録に挑む。そのためには今大会で3位タイ以上入賞が条件だ。PGAツアーには賞金王、年間王者、最優秀選手賞、バードントロフィ(年間最少ストローク)など、ビッグタイトルがある。最終戦まで生き残ったトップ30連続記録の賞はないが、メイハンのプレーオフ実績は、最優秀賞に匹敵する快挙といっていい。
■ タイガー・ウッズさえも、なし得なかった大記録
「9年連続トップ30」を果たすことになれば、とてつもない偉業だと思う。実力だけでなく体調管理など、心身、公私ともに環境が整っていなければ難しい。それを9年も継続しているのだ。通算79勝、メジャー14勝のタイガー・ウッズは07年、09年の2度、年間王者に輝いた。だが08年はランク70位で最終戦前に圏外に脱落。全米オープン後の左膝(ひざ)の手術とリハビリが続き、負傷が響いた。08年シリーズ覇者のビジェイ・シンも、翌09年は81位と第2戦目で脱落。12年以降はトップ30への進出を果たしていない。その頃のシンは膝や踵(かかと)の痛みなど、体調不安を抱え始めた時期だった。通算42勝で殿堂入りしたフィル・ミケルソンも、13年まで7年連続でトップ30入りを続けていたが、昨年は68位に終わり、記録は7年で途切れてしまった。ミケルソンも関節リュウマチや腰痛など負傷の影響が大きかった。12年にランク2位となったロリー・マキロイは13年に50位で脱落。婚約者との離別や、エージェントとのトラブルなどゴルフに集中しにくい状況だった。ビッグネームたちも、メイハンの連続記録に脱帽のはずだ。
もうひとつ、メイハンは「棄権回数の少ない選手」でもある。PGAツアー参戦12年目で、棄権はわずか3回のみ。PGAツアーでの初棄権は08年「ザ・プレーヤーズ選手権」で、2回目は13年の「カナディアンオープン」3日目。最後が、昨季2014年の「アーノルド・パーマー招待」最終日だった。メイハンは徹底した自己管理により、体調不良や負傷が与える影響を最小限度に留める努力を怠らない。トップ30入りの連続記録は、その賜物なのだ。
■ 1億円の決断 家族あってのゴルフ人生
2回目の棄権となった13年8月の「カナディアンオープン」で、メイハンは男を上げた。2位に2打差の首位で3日目を迎えたが、スタート前の打球練習場でカンディ夫人の陣痛が始まったとの連絡を受けた。彼は迷うことなく途中棄権し、テキサス州の妻の元へと駆けつけた。米国では夫人の出産に夫が立ち会うことは当然とされているものの、優勝争い渦中とあっては迷うもの・・・と思われたが、メイハンの答えはひとつ――すぐに帰り支度をし、飛行機に飛び乗った。出産には間に合い、第一子の長女ゾーイ・オリビアちゃんと感激の対面を果たした。そんな彼の行動に「優勝と約1億円の賞金を捨てる決断」との報道もあったが、妻と、生まれたばかりのベビー、両家の家族と病室で一緒に笑顔で記念撮影した彼の姿は、本物のチャンピオンに思えた。
契約しているピン社のソルハイム会長も「そのままプレーを続行していても、優勝したかどうかはわからない。子供の誕生は何ものにも代えがたく、一緒に喜びを分かち合いたい」と、同社伝統の優勝者に贈る金メッキのパターにメイハンとゾーイちゃん2人の名前を刻印しプレゼントした。メイハンはスポンサーの理解と愛情あふれる対応に大感激。この出来事で家族の絆、スポンサーとの絆はゆるぎないものとなった。このような背景もメイハンが高いレベルで安定したプレーを続けている理由だと思う。
そして今年2月6日に待望の第2子、長男ミラー・マイルス君が誕生した。その頃、スケジュール調整に迷っていたが、今回は大成功。予定日の週の試合は事前に連絡して欠場を決め、余裕で出産に立ち会うことができた。メイハンは一男一女の父となり、家族のためにもますます頑張らねば、と気合いが入っている。
- 佐渡充高(さどみつたか)
- ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。