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2016年 ザ・プレーヤーズ選手権
期間:05/12〜05/15 場所:TPCソーグラス(フロリダ州)

<選手名鑑199>ブランデン・グレース(後編)

■ 今年が最終回 コミッショナー フィンチェム氏 シーズン末に引退へ

今週の「ザ・プレーヤーズ選手権」は史上初の賞金総額1000万ドル(約11億円)を超えた大会で、4大メジャーもその後、続々と大台を超えた。優勝者は5年間のシード権獲得など、4大メジャーに匹敵するバリューで、この試合は「第5のメジャー」という位置づけが定着した。

今大会はPGAツアーが総力を挙げ開催するフラッグシップイベント。オールスター出場のみならず、運営や中継などいろいろな部分で新しい挑戦をする特別なイベントでもある。ギャラリーがアイランドグリーンの17番を疑似体験できるようミニチュア版を設営したり、ツアー関連会社のスタッフが会場案内係となるアンバサダープログラムなど毎年、必ず新アイデアを取り入れてきた。中継も米放送局NBCが17番にかつてないアングルからの映像提供するため新しいカメラなどを投入するなど、各分野が未来への挑戦の場としてきた。その総監督といえるのがコミッショナーのティム・フィンチェム(69)。今季終了時で引退を表明しており、今年の「ザ・プレーヤーズ選手権」は彼にとって最終回。22年の総仕上げとして特別なアイデアでファンを驚かせるかもしれない。

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■ 次のターゲットはメジャー&金メダル

会場のTPC at Sawgrass は真っ直ぐ伸びた高い松などでセパレートされ、各ホールは狭い上に微妙なドッグレッグが続く。グリーンも小さめで効果的な池の配置が難度を上げている。ハイクオリティーなショットは必要不可欠で、難局に耐えられる感情コントロール、戦略、度胸、勢いなど総合力が求められる。このような観点から優勝候補を予想するとジェイソン・デイロリー・マキロイジョーダン・スピース、昨年優勝のリッキー・ファウラーダスティン・ジョンソンらが浮かぶ。だが今年の注目は4月に米国初優勝したばかりの南ア出身ブランデン・グレース(27)だ。屈指のショットメーカー、常に冷静、優勝で得た自信も加わり、今大会3回目の出場でいよいよ真価を発揮するのでは、と思う。

グレースは(アーニー)エルス&ファンコート基金出身選手。基金出身でメジャーに初優勝したのは2010年「全英オープン」優勝のルイ・ウーストハイゼン。2人目が2011年「マスターズ」優勝のシャール・シュワルツェル。グレースは第3の男になるべくビッグイベントでの成功を狙う。

またウーストハイゼンが五輪出場辞退を表明したためグレースの代表入りがほぼ確定的。五輪の金メダル獲得へも燃えている。

■ アメイジング!グレース

「QT合格から1カ月で2週連続優勝」

グレースは2010年から欧州ツアーに参加したがシード権獲得ならず。2011年12月、4度目挑戦のQT合格で2012年欧州ツアーのシード権を獲得した。彼の躍進はこの年から始まった。1月15日地元の「ヨハネスブルグオープン」で悲願の初優勝。同地は生まれ故郷プレトリアから南へ55キロと近くホームタウンでの嬉しい勝利だった。その翌週は前年のトーナメント優勝者しか参加できない35人のエリート大会「ボルボゴルフチャンピオンズ」。グレースは前週の優勝で最後に出場権を獲得した。すると最後に劇的な展開が起こった。恩師エルスと母国の実力者レティーフ・グーセンとの三つ巴プレーオフ。グレースは1ホール目でバーディを奪い偉大な先輩を退けた。この2連勝は欧州QTに合格後、わずか1カ月での出来事で「生涯の思い出になる」と喜びを噛みしめた。

「欧州ツアー最少スコアタイ記録60」

2012年4月の「ボルボ中国オープン」でツアー3勝目を飾り「アメイジング・グレース!」「五つ星グレース」と表現され始め、世界ランクも50位に上昇。活躍の舞台が世界に拡大した。12年シーズン終盤に入った10月4日、「アルフレッド・ダンヒル・リンクス選手権」初日のことだった。同大会はセントアンドリュース・オールドコース、カーヌスティ、キングスバーンズと名門3コース使用で行われるプロアマ形式の大会だ。グレースは初日キングスバーンズをプレー。前半7バーディで「29」と抜け出した。後半も16番でイーグルを奪い10アンダー。残り2ホールのどちらかでバーディなら欧州ツアー初の「59」達成!と注目だったが「60」でフィニッシュ。欧州ツアーの最少スコアタイ記録となった。一度も首位を他に譲らず完全優勝。2012年ルーキーデビュー時の世界ランクは271位だったが、シーズン4勝。約15カ月後には世界ランク30位へ急上昇。

15年1月「コマーシャルバンク・カタールマスターズ」で欧州6勝目、今季も同大会で優勝し連覇を達成。4月「RBCヘリテージ」で米ツアー初優勝も挙げ世界ランク11位。トップ10入り目前だ。

■ 重要ミッションは結婚 トラベル・コンパニオンから人生のパートナーへ

グレースの米国初優勝で今季の南ア選手は欧米ツアーですでに8勝(4月末現在)。ベテランからルーキーまで活躍が続いている。才能あふれる新人も次々に出現。南アはアフリカ大陸の最南端に位置し、米国へも欧州へも移動時間が長く体力が必要で経費もかさむ。それでも存在感を強めるわけは先輩たちの徹底的な後輩へのサポート。互助精神と強い絆にあると思う。

そして、結婚も大きな影響を与えていると思う。南ア選手たちは同じ南ア女性の恋人と一緒に転戦を始める。94年エルスがリーズル夫人を初めて紹介してくれた時、恋人ではなく「トラベル・コンパニオン」と表現したのを思い出す。予選落ちした後も仲良く映画に出かける姿などを見る度に、彼女とのリフレッシュがエルスに良い笑顔をもたらしていると思った。恋人というより一緒に成功へ挑む運命共同体であり、数年間、過酷な世界転戦を共通体験した後に結婚。ウーストハイゼン、シュワルツェルも同様だった。

今季から欧米両ツアー参加を決めたグレースも同じ道程を歩んでいる。欧州ツアーに参加した頃から南ア出身のニッキと一緒に転戦を始め、昨年12月に米フロリダ州に拠点を持った。婚約直後に米国で優勝。今年11月に挙式予定だという。南ア選手は世界各地を転戦し、エルスらは南ア、英国、米国と3カ所に拠点を持つ3重生活。ツアープロの中で最もハードなスケジュールで結婚にはより深い理解と工夫が必要なのだ。彼らは揃って妻という最強のパートナーと家庭を築き、それが活躍への原動力になっている。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

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