初メキシコの石川遼 リゾート感満載の雰囲気に「チャンスだと思う」
2016年 OHLクラシックatマヤコバ
期間:11/10〜11/13 場所:エル・カマレオンGC(メキシコ)
<選手名鑑219>オリー・シュナイダージャンズ(前編)
■ 奮起を誓った松山英樹との18ホール
2015年9月24日、年間王者を決めるツアー最終戦「ツアー選手権」が開幕。ポイントランク上位30人しか参加できない特別な試合だ。第8組、12時50分スタートの2選手がコールされた。一人は松山英樹、もう一人はオリー・シュナイダージャンズ(当時22歳)だ。松山への大きな拍手と歓声、続く地元シュナイダージャンズへは、驚きの歓声が沸き起こった。松山は初日、ジム・フューリックと同組でスタート予定だったが、現れたのは2カ月前にプロ転向したばかり、ツアー選手権はおろかPGAツアーの出場権もないシュナイダージャンズだった。ギャラリーは「なぜここに?」と思ったからだった。
その経緯は、フューリックが前週の「BMW選手権」初日、6番ホールで左手首を負傷し途中棄権。骨挫傷(骨のミクロの損傷)で痛みがあり、前日になっても回復せず急きょ欠場を決めたのだ。1人でプレーすることになった松山は、プレーのペースやリズムを維持するため、試合とは関係なく一緒にプレーする“プレイング・マーカー”を依頼することができた。多くの場合は開催コース所属のヘッドプロがその役を担うが、その時はシュナイダージャンズに白羽の矢が立てられたのだった。
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理由はいくつもあった。彼は会場のイーストレイクGCから車で約15分の場所に住んでおり、地元ジョージア工科大学の出身で、会場は大学のホームコースだったこともある。マスターズ創設者ボビー・ジョーンズは母校の先輩であり、会場イーストレイクGCはジョーンズが少年時代にゴルフを楽しんだ原点ともいえる場所で、彼にとって聖地のような場所。シュナイダージャンズはビッグサプライズに震えるほどの喜びだっただろう。年齢も松山が1歳上と近く、二人とも世界アマチュアランク1位(松山2012年8月、彼は2014年)という共通のキャリア。シュナイダージャンズは同年7月の「全英オープン」にアマとして出場し、12位と大健闘した。将来への期待も込め、松山のマーカーに相応しいとの人選だった。
「目標はPGAツアーでトップ30に残り、この大会に出場すること。その雰囲気を味わう貴重なチャンスを与えられ嬉しい」と感謝し、その時を迎えた。初日、松山は1アンダーで11位とまずまずのスタートをし「彼はなかなか良いものを持っている」と感想を述べた。シュナイダージャンズは松山を「力強さや安定感が違う。とても勉強になった」と刺激を受けた。最高の舞台で、注目の松山との18ホールはシュナイダージャンズを「次回は選手としてここでプレーしたい」と奮起させ、1年後にシード権を獲得。この出来事がエネルギー源となったのだ。
■ 優勝で昇格確定 いよいよPGAツアーへ
シュナイダージャンズはウェブドットコムツアーのクオリファイング・トーナメント(シード権獲得試合)に合格し、16年シーズンを同ツアーでプレーした。賞金ランク25位以内に入り、翌季PGAツアーへの昇格を目指した。6月の「エアキャピタル・クラシック」で絶好のチャンスが訪れた。大会3日目に『61』のコースレコードタイで一気に首位浮上。最終日は3アンダー、通算17アンダーでとどまり、カリフォルニア州の日系コリン・モリカワ(当時18歳の大学生)、J.J.スパウンに追いつかれた。だが、プレーオフ2ホール目でバーディを奪って初優勝を挙げた。
賞金ランク3位へ急浮上し、25位以内が確定。最終的には20試合に参加し1勝、2位1回、トップ10に5回で賞金ランク6位に入り、目標だった今季PGAツアーのシード権を1シーズンで獲得したのだった。身長186cm、体重86kg。魅力はその体躯から生み出されるパワーだ。昨季のウェブドットコムツアーでの平均飛距離は308.7ydで18位。飛距離を生かし、イーグルランク5位、バーディランク25位。ボギーを恐れず果敢に攻めるプレーが彼のスタイルだ。
■ 93年&92年の仲間たち スピース、トーマス、バーガー、グリージョ
シュナイダージャンズはジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス、ダニエル・バーガーと同じ93年生まれ。1歳上のエミリアーノ・グリージョとともに、彼らはジュニア時代から競い合い、気心知れた仲間でもある。シュナイダージャンズはジョージア工科大学で経済、経営学の学位を取得し、大学を卒業した昨年にプロ転向したため、プロとしてのスタートはいずれの3人よりも遅れてしまった。
スピースはテキサス大学を2年生の途中で中退しプロ転向。すでに「マスターズ」と「全米オープン」のメジャー2勝、世界ランク1位も経験した。トーマスもアラバマ大学を2年で中退してプロ転向を果たすと、今季2戦目の「CIMBクラシック」で連覇を果たし、ツアー2勝目をマークした。バーガーはフロリダ州立大学を2年で中退しプロに転向。15年シーズンの新人王に輝き、16年は6月の「セントジュードクラシック」でツアー初優勝をマークした。グリージョはIMGアカデミーを経てプロ転向。ルーキー年の16年シーズン初戦「フライズドットコムオープン」で優勝し、同じく新人王に輝いた。
ジュニア時代からの仲間が次々に躍動しても、シュナイダージャンズは勉学とカレッジゴルフに全力投球。「彼らの優勝はとても良い刺激でやる気を掻き立てる。でも僕はやるべきことをやる」と焦る様子はなかった。いよいよ今季はPGAツアーに仲間が勢揃いした。若手ラッシュに彼が加わり、どんなドラマが生まれるか!?
※後編へ続く
- 佐渡充高(さどみつたか)
- ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。