【WORLD】欧州選抜の強さの秘密とは/ライダーカップ
2012年 ライダーカップ
期間:09/28〜09/30 場所:メディナカントリークラブ(イリノイ州)
【WORLD】ライダーカップ史上最も名高いショットは、実際には打たれたものではない
Golf World(2012年9月17日号)
「チーム内は8対2の割合で、オーケーを出したことに反対だったと思う」とレイ・フロイドは言う。「(アメリカ代表主将)サム(・スニード)は昔気質の男で筋金入りだ。サムだったら、パットさせていただろう。彼は、この一連の出来事に不満を持っていた」。
自分はパットを打ってホールアウトするだろうと考えていたジャクリンは、「パットの準備はできていたけど、する必要がなくなってホッとしたよ」と話している。
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数十年が経ち、伝説は尾ひれをつけて広がり、譲ったパットの距離は伸びていった。この年に初参加し、通算8度ライダー・カップに出場したスコット・バーナード・ギャラシャーは、後に3フィートだったと言っている。他の文献には、4フィート、あるいはそれ以上と書かれているものもある。
対照的に、1969年9月号のゴルフ・イラストレーティッド誌(イギリス)に掲載された写真のキャプションには、「18番ホールで、カップまで1フット届かなかったパットに対するジャクリンのリアクション」とある。1971年ライダーカップのメディア・ガイドには、1969年の試合のまとめで、さらに短く書かれている。「両者ともにグリーン上だったが、ジャクリンがカップから18フィート離れた位置から先にパットし、ひと転がりふた転がりの距離に寄せた」―。
ジャクリンは、そのパットを2フィートに寄せたと試算する。「距離はジャックの査定だ。その場にいなかった人が、3フィートだの4フィートだの言っているだけ。もちろん、そんなのナンセンスだね」。
「パットが譲られるのは、自分の中では当然だと思っていた」と、フロイドは主張する。「何も8フィートのパットを譲ったわけじゃない。賞金の懸かった試合をしているなら、おそらく譲られていたはずだ」。
ニクラスは言う。「あれ以来、何人ものライダーカップ主将に聞いてみた。“君だったら、どんな展開になってほしい?”って。すると、彼らは“ジャック、君はまったくもって正しいことをしたと思うよ。それこそが、ゴルフが行われるべき精神であり、あるべき姿だ」。
さらに2つの事柄が、心に残る。1969年のライダーカップは、そこまで壮大な展開を見せた大会ではなかった、そして、譲られたパットは引き分けを決めるものだったからこそ、アメリカ代表はカップを保持した。
「あの年、スポンサーの関係で、ライダーカップを止めるかもしれない、という話し合いがなされていた」と振り返るのは、フロイドだ。「金銭的に余裕がなかったんだ。特に、イギリス側がね」。そこで、タバコ会社のシニア・サービスが姿を現し、金銭面でのサポートを申し出た。
カップ戦は、あまりにも一方的すぎた。アメリカ代表が17大会のうち14試合で勝利。それまでの3大会は、平均で12ポイント差がついていた。イギリス代表に、イギリスが持つその他の領地も含めることも検討されていた。ライダーカップはあまりに小さい大会だと判断され、アメリカでは1969年大会はテレビ放送されなかった。
カップを防衛することこそ、ニクラスの心の中にあった思いだった。「かなり迅速に考えたんだが、自分の思考プロセスはこうだった。“ここにトニー・ジャクリンがいる。彼は久しぶりに現れたイギリスのヒーローだ。もし引き分けだったら、我々はカップを防衛できるが、物の見方によれば、イギリスとイギリス代表にとって引き分けは大きな勝利になる”」とニクラスは言った。「そして、トニーを立場上、追いやりたくなかった。万が一、パットを外してしまったら、その時は彼がスケープゴートにされる。彼はあれだけ偉大なるヒーローなんだから、それはフェアじゃないと思ったんだ」。
あれがノブレス・オブリージュ(高貴な者の負う責務)であろうと、少し見下した態度であろうと、はたまた単純に素晴らしいスポーツマンシップであろうと、ジャクリンには何の問題もない。「自分はパットを沈められた。100パーセント、そう信じているよ」とジャクリンは言う。「準備は整っていた。でも、“打たなければならない状況だったらよかったのに”と考えたことは一度もない。自分はそういう心理にはならないんだ」。
イギリスでは、この引き分けはライダーカップが真剣勝負に戻った、輝かしい結果として受け止められている。ほとんど覚えられていない寛大な振る舞いのひとつとして、その夜、PGA of Americaのレオ・フレイザー代表は、次の大会までの2年間のうち最初の1年間は、イギリスのPGAにトロフィーを託すと発表した。
ザ・コンセッションは、熾烈な戦いの真っ只中に見られる望ましい紳士像の代表として、今でも心に響き続けている。
米国ゴルフダイジェスト社提携
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