マキロイが逆転で大会3勝目 小平智11位
2021年 ウェルズファーゴ選手権
期間:05/06〜05/09 場所:クエイルホロークラブ(ノースカロライナ州)
冷静と情熱のマキロイ 次戦「全米プロ」は2012年Vコース
あんなに緊張したロリー・マキロイ(北アイルランド)の表情を見たのは、初めてかもしれません。2019年10月「WGC HSBCチャンピオンズ」以来となる優勝がかかった「ウェルズファーゴ選手権」最終日。16番からの上がり3ホールは“グリーンマイル”と称される難所でもあります。
マキロイは「WHOOP(フープ)」というアスリートのコンディションを管理するリストバンド式の端末を装着してプレーしていますが、最終18番の心拍数は140台を記録していたそうです。安静時で1分間に60~80回ほどが一般成人の正常値とされていますから、久々のタイトルを目前にして大きな重圧とも闘っていたことを物語っていますね。
<< 下に続く >>
前回勝ったWGC前後は絶好調。年をまたぎ、20年に入っても4試合連続でトップ5を外しませんでした。しかし、コロナ禍のツアー中断を挟んで状況は一変します。
中断中も精力的にトレーニングに取り組む様子をSNSに投稿するなど、貪欲にレベルアップを図っていた様子。それでも、規格外の飛ばし屋に変身したブライソン・デシャンボーから受けた衝撃はすさまじかったと明かしています。2014年を最後にメジャータイトルから遠ざかり、デシャンボーが超ハードセッティングの「全米オープン」を制したことで、後れを取るわけにはいかないという焦りにも似た思いがあったかもしれません。さらなるスイングのスピードアップを求めた結果、調子を崩してしまいました。
直近3試合も「プレーヤーズ選手権」で予選落ち、「WGCデルマッチプレー」はグループリーグ敗退。「マスターズ」も週末に残れず、世界ランキングは09年以来となる15位まで下がっていました。
勝つことに飢えた王者は必死でした。渡航制限によって幼い頃から指導を仰ぐマイケル・バノンさんに直接チェックしてもらえる機会が減少する中、新たにピート・コーウェンさんとも契約。振りすぎず、本来の自分のテンポに戻す課題と向き合っていました。
3日目の12番で喫したダブルボギー。林でセパレートされた右ドッグレッグのホールですが、フォローの風が吹き、彼の飛距離なら1Wを握る必要はない状況だったと思います。フェードをかけにいったボールが右に曲がらず、そのまま左の林に突っ込む“ダブルクロス”。近年は無理をして自滅する展開を何度も見てきただけに、イヤな予感もよぎった中、最終日は3Wでフェアウェイに置く戦略に切り替えてきました。
左サイドを走るクリークよりもさらに左、極端な前下がりとなる深いラフまで曲げた72ホール目の最終18番。最初はロブウェッジを手にしてかき出そうとしていましたが、結局アンプレアブルを宣言して、より良いライ(それでも、かなり難しい状況でしたが…)からグリーンをしっかり捉えて勝ちにつなげました。
この場面、親友でもあるハリー・ダイアモンド・キャディに「3打目を打つのに最も適した場所はどこか、落ち着いて考えてみよう」と言われ、我に返ったといいます。世界トップクラスのパワーと技術で積み上げたPGAツアー19勝。こういった紙一重の押し引き次第で、もっともっと優勝も増えていくと思いますし、再びナンバーワンに上り詰める可能性も十分あるでしょう。
雌伏の時期を乗り越えたマキロイの次戦は「全米プロゴルフ選手権」。9年前には後続に8打差をつけ、大会史に残る圧勝を飾ったサウスカロライナ州キアワアイランドリゾートが舞台です。マスターズ覇者・松山英樹選手との優勝争いに今から期待が膨らみます。(解説・進藤大典)
- 進藤大典(しんどう・だいすけ)
- 1980年、京都府生まれ。高知・明徳義塾を卒業後、東北福祉大ゴルフ部時代に同級生の宮里優作のキャディを務めたことから、ツアーの世界に飛び込む。谷原秀人、片山晋呉ら男子プロと長くコンビを組んだ。2012年秋から18年まで松山英樹と専属契約を結び、PGAツアー5勝をアシストした。