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進藤大典 PGAツアー・ヤーデージブック読解

コロナ禍を吹き飛ばす“鳥肌イーグル” 松山英樹は役者が違った

まさに役者が違いました。松山英樹選手が「ZOZOチャンピオンシップ」でPGAツアー通算7勝目を飾りました。2019年大会で優勝争いを演じたタイガー・ウッズの足跡をたどるように、同一年の「マスターズ」と「ZOZO」を制覇。2017年「WGC ブリヂストン招待」最終日にウッズのコースレコードに並ぶ「61」をマークして逆転勝ちを収めたときもそうでしたが、同じ日本人として誇らしい気持ちになります。

今回は仕事で会場に足を運んでいたため、久しぶりに生で松山選手の優勝を見届けることができました。本人がインタビューで繰り返していたように、練習場を見る限り少しボールが散らばっている感じはありましたし、状態そのものは決して良くなかったと思います。

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しかし、練習場はあくまで練習場。僕がキャディをしていたときも、にっちもさっちも行かないような練習場での不調から一転、コースに出たら優勝している、なんてことは何度もありました。そんなときは決まってスタートホールで“週イチ”のティショットが出たりするのです。勝ったから言うわけではありませんが(笑)、最終日の1番ホールでフェアウェイど真ん中へボールをかっ飛ばした瞬間、僕は勝利を確信していました。

後続とは1ストローク差の単独首位からスタート。要所でアグレッシブなラインを攻めていく場面があった一方、全体としては決して無理をしないマネジメントが光りました。

ボクシングで例えるなら、いつでも右ストレートを繰り出せる気配を漂わせつつ、左ジャブとフットワークで相手をけん制しているような雰囲気。特に前半6番(パー5)でイーグルを獲るまではそんな印象を受けました。同じ最終組のキャメロン・トリンガーリはスコアが動いていない中でも、松山選手から崩れる気配がないことを感じ取っていたのではないでしょうか。

6番で最初にスコアを動かした後も、11番、13番(パー3)、15番と気持ちのいい距離のパットを次々と沈めました。先週苦しんでいたグリーン上が勝負どころでさえたのは、積み重ねてきた試行錯誤があってこそ。突然ではあっても、偶然ではありません。「練習は裏切らない」「ゴルフの神様は絶対にいる」-。松山選手の練習やトレーニング、努力する姿勢を見ていると、そう思わずにはいられません。

そして、なんと言っても最終18番(パー5)のセカンドです。残り244ydから5Wでカットしてピンの根元に刺したシーンは、何度映像で振り返っても鳥肌モノ。優勝がかかるあの場面で、あのスーパーショットを打てる選手が、果たして世界に何人いるか。

青木功さんが1983年「ハワイアンオープン」で見せた奇跡のチップインイーグルが語り継がれるように、日本開催のPGAツアーで日本人がタイトルを掲げた記念すべき大会を象徴する名場面として記憶されていくはずです。

それまで基本的に6速あるギアの3速くらいでプレーしていた松山選手が、一気にアクセルを踏み込んだようなクライマックス。誰もが興奮を抑えきれずにわき上がった大歓声は、会場にいる皆さんがあの一瞬だけでもコロナ禍にあってゴルフというスポーツの素晴らしさに心から浸ることができた証明のように思います。マスターズに続き、今度は日本で夢と感動を届けてくれた松山選手へ、僕も一人のゴルフファンとして感謝を伝えたいです。(解説・進藤大典)

進藤大典(しんどう・だいすけ)
1980年、京都府生まれ。高知・明徳義塾を卒業後、東北福祉大ゴルフ部時代に同級生の宮里優作のキャディを務めたことから、ツアーの世界に飛び込む。谷原秀人、片山晋呉ら男子プロと長くコンビを組んだ。2012年秋から18年まで松山英樹と専属契約を結び、PGAツアー5勝をアシストした。

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