本邦初公開!中島啓太の“地下秘密基地”がスゴイ/単独インタビュー(上)
2023年 全英オープン
期間:07/20〜07/23 場所:ロイヤルリバプール(イングランド)
バーディは4つ来る データが支える中島啓太ポーカーフェイスの快進撃/単独インタビュー(下)
「プロ転向したタイミングが、体調も調子も一番悪かった」。中島啓太が満を持して迎えたプロ初年度は、決して満足できるシーズンではなかった。初戦は昨年9月「パナソニックオープン」。一昨年にアマチュア優勝を挙げた大会は48位だった。8月に高熱が続いて寝たきりの日々が続き、病み上がりで同月末の「世界アマ」出場のためフランスへ。帰国後すぐに大学の試合に出場し、5日間で10ラウンドをこなした直後にプロデビュー戦を迎えていた。
11月「ダンロップフェニックス」では予選落ちも味わった。「去年はゴルフが完全にヘタ。ティショットも荒れて結果も出せなかった」と振り返った時期を経て、今季は国内ツアーの10試合でトップ10を外したのは3度だけ。5月からの勢いは目覚ましく、優勝した6月「ASO飯塚チャレンジド」を含め、5週連続で最終日最終組に入った。「去年と一番変わったのは、ドローボールが武器の一つになったことと、試合を4日間の流れとして作るようになったこと。ストレスなく最終日まで試合を持っていけていると思います」と、自身の変化を分析している。
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新しい武器はドローボール
もともとはフェードヒッターで、ドローボールは曲がり幅や距離感のコントロールが利かなかった。持ち球のフェードへのこだわりを捨てたのは、今季開幕戦「東建ホームメイトカップ」を終えたころ。「試合をやりながら、左ピンに対してのドローの攻めがほとんど成功していることに気づいたんです。打ちやすいと思って打っていたら、スイングの迷いが一切消えた」と手応えをつかんだ。
ドローが武器の一つに加わると、ゲームプランにも変化があった。4日間で試合の流れを考えて、ショットのイメージを組み立てる。一番強く意識したのは5月の「~全英への道~ミズノオープン」だ。「9番は右に池があるので、絶対に右にミスしちゃいけない。フロントナインは1Wを右にミスするイメージだけは絶対に残したくないので、ミスするなら左。逆に18番は左サイドが池なので、後半ハーフは絶対左に行くイメージを残さないよう、右へのミス(はOKと考えること)を心がけてやっていました」
同大会を2位で終え、ここから5週連続の優勝争いがスタートした。
パーが多いところが好き キム・キョンテに憧れて
試合運びをより意識するようになったきっかけは、もう一つある。学生時代から憧れたツアー通算14勝のキム・キョンテ(韓国)の存在だ。
「キョンテさんが大好きで。ポーカーフェイスなところと、『鬼』って言われている勝負強さ。あとはパーが多いところも好きです。パー、パー、パー、バーディ、パー、パー、バーディ…みたいに試合を進めて、最後はすごく強い。そういうところに憧れています」
不調に悩み、焦りを感じていた昨シーズン。「キョンテさんがどういう感じでゴルフをやっていたのか知りたくて」と頼ったのが、かつてキムのキャディを務めた島中大輔氏だった。昨年「三井住友VISA太平洋マスターズ」で初めてバッグを預けた。
「最初の頃は調子も悪かったので、まずは色々な情報を聞きたかった。『(キムは)チャンスを待つというか、我慢強くじっとプレーして、最終日のバックナインまでつないでいく感じ』だと聞いたので、自分なりに意識しながらやっています。今は相手選手を見ながら優勝争いができるようになったので、そこはいい感じです」
焦りが消え、冷静なジャッジで淡々とホールを進めていく。島中キャディが見た今の中島は「リスクがあれば少し引いて、ボギーにしないバーディパットを打てれば十分と考えてやっている。思い切りの良さも判断力もある。普通の人なら慌てるところでも、待てる余裕があるのから強い」と、かつてのキムと重なる。
ちなみに、キムとはアマチュア時代に出場した2018年「アジアパシフィックオープンゴルフチャンピオンシップ ダイヤモンドカップ」で対面した。「予選ラウンドの組み合わせが一緒になって。背中を痛めて(途中)棄権されたんですが、一緒に回らせてもらう機会があった。その時も島中さんと組んでいたので、まさか今、自分が島中さんに(キャディを)やってもらえるなんて想像できなかったですね」
データを信じろ
キムさながらのポーカーフェイスは、数字から来る自信が作り上げている。たとえ優勝争いの局面でも、なかなかバーディが来なくても焦らない。
「8年間データを取り続けている中で、1ラウンドで平均4.5個のバーディが獲れる。ナショナルチームのジョーンズコーチからも、その数字を信じろとずっと言われています」
日本ゴルフ協会(JGA)のナショナルチーム時代からの習慣で、毎ラウンド、毎ショットの『記録』を8年間取り続けている。オーストラリアで開発された『ショット・トゥ・ホール』というゴルフ専門の統計ソフトを使い、「使用クラブ」、「ピンまでの距離」、「難易度」、「ショットの結果」を毎日記録。データがたまっていくと、距離別のショットのスコアへの影響度や、「どこを磨けばスコア改善に効果があるか」を統計的に示してくれる仕組みになっている。ナショナルチーム卒業生では、古江彩佳や金谷拓実らも使っている。
地道な作業はそれなりに長い時間も伴う。「1ホール分を入力するとしたら、ドライバーでどこに行って、セカンドの距離が154ydで、番手は9I、その場のライと難易度を5段階で入力します。3打目でグリーンを外したら、残りは10yd、番手は60度、またライを入れて…。パターは2mで、どういうラインをどっちに外したか…。良いスコアで回ったら(全ての入力が)15分くらいで終わるんですが、いっぱい打っちゃうと25分くらいかかりますね」
これを毎ラウンド終了後、ケアを受ける間や帰りの車の中で地道に入力。「楽なことではないですが、データで振り返ることができるのはすごくいい。ミスの傾向も分かるし、頭の中でもう1ラウンドできるので」と、中学3年からため続けたデータが自信の根拠になっている。
「例えば初日にバーディが2つしか来なかったら、2日目は6個来る。前半がダメでも、後半に4つ来るかもしれないじゃないですか。だから我慢してやる。そこは信じてやっています」
23年唯一のメジャー「全英」へ
現在賞金ランキングは1位に立っているが、「どちらかというと、スタッツで1位を取る方がうれしいかな」と正直『賞金王』のタイトルはピンと来ない。
アマチュア時代からPGAツアー進出という目標を見据えている。昨年8月に改定された世界ランキングの新システムは痛手だった。出場選手層のレベルがより重視されるようになった新システムでは、日本ツアー優勝者が獲得できるポイントは16pt以上(日本オープンは32pt)から6pt前後に激減した。
「世界ランキングの“上がらなさ”には、ちょっとビックリしました。(獲得ポイントが)以前の3分の1くらい」
7月9日付のランキングで中島は151位。以前のシステムで今季の成績であれば、トップ100入りは早々にかなったはずだった。中島が今年出場できるメジャーは20日(木)開幕の7月「全英オープン」(イングランド・ロイヤルリバプール)1試合にとどまった。「やっぱり全英でしっかりパフォーマンスを出したい」と大きなチャンスに懸けている。
「海外に行きたい。欧州ももちろんいいけど、今は正直、考えていません。PGAツアーを目指したい。ただ今はもっと勝ちたい思いもあるので、たくさん優勝争いをして、日本であと2勝したい」
今年は、それを実現させる自信がある。(編集部・谷口愛純)